アーティストの佃七緒による企画「翻訳するディスタンシング」は、人と人が接触するとき、作品と人が接触するときに発生する「翻訳」について、実際に作家と企画者、翻訳者が共同で行うことで再考を試みるものです。
作家は、作品や自身の活動についてのテキストをしばしば執筆します。そしてそれは多くの場合、データとして参照される際の必要性から、現代美術のデファクトスタンダードである英語に翻訳されます。佃は、そうしたテキストを「翻訳」したい作家を広く公募し、必ずしも美術を専門としない第三者を介入させ、約半年に渡る対話を行います。これにより、今回の「翻訳」には、単なる言語上の変換だけでない、第三者へ真意を伝えるための自己分析と対話の必要性が発生します。他者を介した「翻訳」により、作家が何をどのように鑑賞者へ提示しようとしていたのかが明らかになることで、作品そのものにも新たな息吹が吹き込まれることでしょう。
概要
ALLNIGHT HAPS 2020「翻訳するディスタンシング」
プロジェクト期間:
2020年7月~12月(翻訳のための対話)/
2021年1月~3月(HAPSギャラリー展示)
企画:佃七緒
出展者:小出麻代/小林太陽/西尾佳織/長谷川由貴/村上美樹
展覧会 会期
第1期 1月15日〜1月26日
「《形代 – constellation》 点をつなぐ」
作家:小出麻代 協力者:山森裕毅
第2期 1月29日〜2月9日
「《Thinking in the Midnight》」
作家:長谷川由貴 協力者:三林寛子・石井佑基
第3期 2月12日〜2月23日
「《good conversation》」
作家:小林太陽 出演:具本媛・朴徹雄・周すみん
第4期 2月26日〜3月9日
《To see my reminiscence thro’ your eyes》
《あなたの目を通して故郷を見る》
作家:村上美樹 協力者:三浦隼暉
第5期 3月12日〜3月23日
《生活の知恵(生きる技術)》
作家:西尾佳織 協力者:小島尚人・手塚夏子・石見舟・大泉七奈子・アレハンドラ・アルメンダリズ-ヘルナンデズ・大道寺梨乃
展示時間:18:00〜9:30(翌日朝)
会場:HAPSオフィス1F(京都市東山区大和大路通五条上る山崎町339)
主催:一般社団法人HAPS
支援:2020年度 文化庁 文化芸術創造拠点形成事業
助成:公益財団法人 朝日新聞文化財団/アーツサポート関西
作家と対話者とのメモ、記録などは「翻訳するディスタンシング」特設ページでご覧いただけます:https://allnighthaps2020.o0o0.jp
企画趣旨
ALLNIGHT HAPS 2020の企画として、作家と翻訳に関するプロジェクトを行います。
「翻訳」という言葉は、単に一つの言語から別の言語に言葉を置き換えることだけを指しません。人と人とが接触するとき、国・文化・人種・分野・システム・考え・身体・色・形、など色々なものを超えてやりとりが生じます。呼びかけた人、呼びかけられた人は、互いに、誤解や誤訳も生じさせながら「翻訳」をたえず繰り返します。作品と鑑賞者の間でも、同様の接触・翻訳が生じていると思います。
この企画では、作家のテキストを母語から別の言語に変える、いわゆる翻訳を、作品制作を専門としない人との対話を通して試みます。作家それぞれの作品制作において、どこまで・どのような言語化が必要なのか、発表する際には、それをどこまで・どのように鑑賞者に提示するのか。日々使ってきた言葉の幅を、既存の枠になんとなく嵌めたまま使っていないか、他者や他の言語を通してあらためて意識する。
「翻訳されない言葉」も、「言語化されない表現」も、丁寧に確認し、作家にとっては次の制作・発表への準備、鑑賞者にとっては次に出会う作品・作家に興味を持つためのささやかな土台づくりとなればと思います。
(企画者:佃七緒)
出展者プロフィール
小出麻代(こいで まよ)
1983年大阪府生まれ。2009年京都精華大学大学院芸術研究科博士前期課程版画分野修了。
近年は様々な場所に赴き、場所そのものや、そこに関わりを持つ人とのやり取りを起点に「記憶」や「時間」にまつわるインスタレーション作品を制作している。主な個展に「黙字」(千鳥文化/大阪/2020)、「形代ーかたしろ」(オーエヤマ・アートサイト、八木酒造/京都/2020)、「うつしがたり」(枚方市立御殿山生涯学習美術センター/大阪/2019)、 グループ展に「日日の観察者」(ANTEROOM/京都/2020)、「生業・ふるまい・チューニング 小出麻代ー越野潤」(京都芸術センター/京都/2018)、「大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2015 枯木又プロジェクト」(旧中条小学校枯木又分校/新潟/2015)、アーティスト・イン・レジデンスに「END OF SUMMER 2018」(YaleUnion/ポートランド、アメリカ/2018)など。
小林太陽(こばやし たいよう)
1995年生まれ。東京都出身、神奈川県在住。美術家、映像作家。国際基督教大学卒。自身と遠く離れていると感じる人・もの・出来事を、自分と適切な距離に置き直すための作品を映像を使用して制作する。主な展示・プロジェクトに、個展「ぼくらは今のなかで」(画廊跡地、2019年)、「RAM PRACTICE 2020 – Online Screening」(オンライン、2020年)、中央本線画廊/画廊跡地(2017~2019年)。
西尾佳織(にしお かおり)
劇作家、演出家、鳥公園主宰。1985年東京生まれ。幼少期をマレーシアで過ごす。東京大学にて寺山修司を、東京藝術大学大学院にて太田省吾を研究。2007年に鳥公園を結成以降、全作品の脚本・演出を担当。「正しさ」から外れながらも確かに存在するものたちに、少しトボケた角度から、柔らかな光を当てようと試みている。『カンロ』、『ヨブ呼んでるよ』、『終わりにする、一人と一人が丘』にて岸田國士戯曲賞にノミネート。鳥公園の活動とは別に近年のプロジェクトとして、マレーシアのダンサー、振付家のLee RenXinと共にからゆきさんのリサーチなどにも取り組んでいる。2015年度よりセゾン文化財団フェロー。
長谷川由貴(はせがわ ゆき)
ペインター・大阪府在住。京都市立芸術大学大学院修士課程絵画専攻油画修了後、京都の共同スタジオ「punto」を拠点に制作を行なっている。人間が、自分以外のものを取り込んできた文化・歴史を参照しながら、対象への敬意と畏れの感覚を絵画に落とし込んでいる。近年の主な活動に、2020年個展「あなたの名前を教えてほしい」(ギャラリーモーニング/京都)、ARTIST’S FAIR KYOTO:BLOWBALL punto×副産物産店+仲地志保美「Wunderkammer 」(GOOD NATURE STATION/京都)、2019年個展「VANISHING FRAGMENTS」(CLEAR GALLERY TOKYO/東京) など。
村上美樹(むらかみ みき)
1994年秋田県生まれ。2013年秋田公立美術工芸短期大学附属高等学院卒業。2017年京都造形芸術大学美術工芸学科総合造形コース卒業。2019年京都市立芸術大学大学院美術研究科修士課程彫刻専攻修了。近年の主な展覧会に、2020年「道にポケット」京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA|京都、2016年「とりとめのないもの」ギャラリーマロニエ|京都、2017年「集団_展示」コーポ北加賀屋・千鳥文化|大阪、2019年「群馬青年ビエンナーレ2019」 群馬県立近代美術館|群馬などがある。
記憶をテーマに人々との対話や物の由来に関するリサーチを通して、鑑賞者と相互し合う体験の拡張の研究。 他者を含む個人的な経験や記憶の忘却、それらにまつわる物の廃棄に対する抵抗として、風景や社会的状況の中で忘れ去られた出来事や物を拾い出し、忘却・廃棄に対する抵抗を通して現れる愛着を重要な要素としながら、記憶の場となるような立体造形・インスタレーション作品の制作・発表をしている。
対話・翻訳協力者プロフィール
山森裕毅(やまもり ゆうき)
1980年兵庫県生まれ。
大阪大学COデザインセンター特任講師(常勤)。フランス現代哲学を軸に記号論やメンタルヘルス、呪術などを研究中。最近の関心は「ダイバーシティの時代におけるマジョリティの倫理」。著書に『ジル・ドゥルーズの哲学』(2013年、人文書院)。
三林寛子(みばやし ひろこ)
園芸家。東京都在住ブラジルのベラビスタオーキッドの日本支店として独立し、南米の洋蘭を日本やアジア各国に輸入販売している。ブラジルの自生地も探訪し、現地の野生の蘭を観察記録している。
石井佑基(いしい ゆうき)
東京都在住。筑波大学大学院生命環境科学研究科博士前期課程修了。会社員の傍らランの品種改良や栽培に取り組む。特にパフィオペディルムやアツモリソウといったランを愛好する。栽培に関しては高山性のラン栽培用にワインセラーを活用するなど、その植物に最適な環境で育てる事を信条とする。全日本蘭協会学術委員、ラン懇話会幹事、東京山草会ラン・ユリ部会幹事。小型野生ランを楽しむ(栃の葉書房)、植物工場とラン(自然と野生ラン連載 エスプレスメディア出版)、BRUTUS特別編集珍奇植物(マガジンハウス)など著書多数。
具本媛 Koo Bon-Won
朴徹雄 Park chulwoong
1982年生まれ。韓国ソウル出身。日本語教育を韓国の大学で専攻。2011年に来日。現在、神戸の王子公園の近くで世界の旅人と地域をつなぐための、地域密着型「ゲストハウス萬家」を運営中。
周すみん CHOU Sumin
1991年生まれ。京都市在住のフリーランス訳者、プロデューサー。京都大学大学院人間・環境学研究科修士課程修了。中国語・広東語のネイティブスピーカー、日本語・英語・韓国語の使用者。言語に強い関心を持つとともに、言語を介さないコミュニケーション方法を日々研究中。
三浦隼暉(みうら じゅんき)
1991年 埼玉県所沢市生まれ。現在、東京大学大学院人文社会系研究科哲学専門分野博士課程に在籍中。
十七世紀の哲学者G.W.ライプニッツを中心に近世における実在の概念に着目しつつ、当時の「生きもの」観と彼の哲学の結びつきを研究している。幼い頃から他人の世界観を知りたい気持ちに溢れており、いつの間にか、300年以上前の人間の研究者になっていた。主な論文に「後期ライプニッツの有機体論—機械論との連続性および不連続性の観点から—」(日本ライプニッツ協会研究奨励賞受賞)等がある。
小島尚人(こじま なおと)
1983年埼玉県生まれ。2001年からバンドマン。2007年からアメリカ文学研究者にもなり、2016年から法政大学文学部英文学科専任教員にもなって現在に至る。
手塚夏子(でづか なつこ)
ダンサー/振付家。1996年よりソロ活動を開始し、マイムからダンスへと以降しつつ、既成のテクニックではないスタイルの試行錯誤をテーマに活動を続ける。2001 年より自身の体を観察する『私的解剖実験シリーズ』始動。2018年4月からベルリンでのダンス活動を開始。同年10月にKyoto ExperimentにおいてFloating Bottle Project「点にダイブする」を上演。2020年10月、言葉の壁と格闘する作品『壁と戯れる/Mauerspiel』をFFTとKölnの日本文化館の共同企画にて上演し、12月にそれを参加型のzoomバージョンとして日独センター企画として発表。
大泉七奈子(おおいずみ ななこ)
多摩美術大学絵画学科油画専攻を卒業後、アシスタントを経て舞台美術家として活動。アマヤドリ、鳥公園、冨士山アネットなどの美術を手がける。2013年、文化庁の新進芸術家海外派遣制度によってドイツ・ミュンヒナーカマーシュピーレにて研修。研修後2014年から2019年まで、ブレーメン市立劇場に勤務。レパートリー作品の美術・衣装を手がける。現在はフリーランスの舞台美術・衣装家として活動中。ブレーメン在住。
石見舟(いしみ しゅう)
ライプツィヒ大学演劇学研究所博士課程在籍。専門は演劇学、ドイツ文学。現在、ハイナー・ミュラーの劇作と能楽の触発を風景の位相から再検証する博士論文を準備中。平田栄一朗、針貝真理子、北川千香子共編『文化を問い直す』(彩流社、2021年)の第5章「〈今ここ〉からずれる風景――ハイナー・ミュラー『ハムレットマシーン』を例に」を執筆。
大道寺梨乃(だいどうじ りの)
1982年東京生まれ。劇団FAIFAIの創立メンバーとして国内外での作品に俳優として参加。2014年よりソロでの活動を開始し『ソーシャルストリップ』を東京・横浜・北京・香港・バンコクにて上演。2015年よりイタリアに移住し以降は日本とイタリアを拠点に活動。自分や身の回りの人々の日常からつながる物語を現代のファンタジーとしてパフォーマンスに起こし上演する。主な作品に『これはすごいすごい秋』など。
アレハンドラ・アルメンダリズ – ヘルナンデズ(Alejandra Armendariz-Hernandez)
スペイン出身の日本映画研究家。現在、マドリードのレイ・ファン・カルロス大学で博士課程に在籍中。論文では日本映画における女性映画人と女性の表象を研究。文部科学省研究生として東京の明治学院大学に留学。2017年から、ロンドンのジャパンソサエティで勤務。
企画者プロフィール
佃七緒(つくだ ななお)
美術作家・大阪在住。それぞれの土地に住まう人々の、日々の生活を構成する道具・家具・住居などの住環境や、その中での営みの情報を取り入れ、ドローイングや、日常でなじみのある素材を用いての立体および空間制作を行う。近年の活動に、2019年、飛鳥アートヴィレッジ参加、2018年「Artspace」(シドニー)で滞在制作(京都芸術センター
ALLNIGHT HAPSについて
本企画は、若手アーティストおよび若手キュレーターの養成を目的とする、年間2名の企画者による展覧会シリーズです。HAPSオフィスの1階スペースにて終夜展示を行い、道路からウィンドー越しに観覧いただきます。