僕は建築のいらない世界をずっと夢見てきた。:岡啓輔インタビュー

 
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蟻鱒鳶ル(2014年5月)

 
蟻鱒鳶ルは、つくることを曝け出そうと決心して、どうなるか解を決めないまま建てはじめ、今でもわかりません。また、あちこちにいろんな形のでこぼこや文様があり、よく人から、不思議な建築ですねとか、言われることもあります。
 
今から思えば、いかに建築を消すかということばかり考えていた頃は「非作家性の時代」とか、オブジェクトをつくるなとか、レム・コールハースがディティールとか小さいものにこだわってる時代じゃないだろう、と発言して、それをかっこいいと受け取る流れがあった時代でした。デザインよりもっと考えなきゃいけないものがあるだろう。と言葉の上手な人たちが、文字を通じて多くの建築人に影響を与えていました。
 
一方であんまりしゃべらない、手を動かして作っている人たちは、なかなかそういう方面に意識が向けられなかったと思います。僕は、装飾というのは、日常で言葉を巧みに使って伝達できるインテリのデザイナーの人たちのものではなく、手を動かして作っている職人さんたちのもので、現場で作りながら、「この建築に長持ちしてほしい」とか、「ここに住む人が幸せになってほしい」とか、そういう言葉にならない思いを込めたものなんじゃないかなと思っています。
 
蟻鱒鳶ルのセメントは、砂利と砂をホームセンターで買ってきて、地下でこねてつくっています。それは水セメント比が30%という水の量がとても少ない比率でつくっています。いま日本の建築は木造建築の寿命が20数年で、鉄筋コンクリートの寿命が35年くらいといわれています。僕のコンクリートを専門家に見てもらったところ、200年はもつだろうと言われました。
 
そのくらいはもってほしいと、自分でもそのつもりでつくっています。
 
当初は、5年もしたら、完成するだろうとずいぶん気楽に考えていたんですが、いざ、着工してみると、あっという間に10年が過ぎ、それでもまだ完成していません。その間、いろいろあって、ずっと人にいろんなことを教わっている感じです。自分じゃほんとわかってない。
だけどなんかわかないけれども、僕は人生の仕事として「こっちいいぞ」ということを伝える係になったんだなと感じています。
 
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マイアミさんとともに(2015年2月)

 
蟻鱒鳶ルという名前は、信頼する芸術家で友人のマイアミにつけてもらいました。命名料も渡してお願いしました。「アリマス」というのは、「ここにあります」という肯定的な願いを込めてて、「あるかもね」とか弱い感じじゃなくて、「ある」と断言して肯定する感じです。
また、マイアミが「おれは建築のことは知らないけれども、シェラトンとかヒルトンとかトンのついているホテルはイケてる気がする、一流だ」(笑)と。で、「アリマストン」となり、そこで僕が、「漢字がいいんだけどね。」と言って、アリ=蟻、マス=鱒、トン=鳶、としました。陸海空の動物の漢字で、それぞれの動物がしょぼい感じも気に入っています。
 

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