B 作品の所有権と著作権
【事例2】 「顔真卿自書建中告身帖」事件
(第一審:東京地裁昭和57年1月25日判決 控訴審:東京高裁昭和57年11月29日判決 上告審:最高裁判所昭和59年1月20日判決)
【原告】財団法人書道博物館
【被告】書芸文化新社(出版社)
【事案概要】
著作権の保護期間が過ぎた美術作品(書)を所有する、中村不折の遺族による財団法人と、その作品の写真乾板を入手して書籍を出版した出版社との間で争われた事件です。美術作品の所有権に基づき書籍出版の差し止めができるかが争われ、一般的には、所有権と著作権の関係を明確にした裁判例として知られています。
【結論】
最高裁判所の下した結論は、美術の著作物の原作品(物体としての美術品そのもの)の所有権を有していても、著作物(表現情報)の支配はできず、従って著作権の保護期間が過ぎた美術作品の著作権は保護されないというものでした。
また、博物館や美術館において、著作権が現存しない著作物の原作品の観覧や写真撮影について料金を徴収している事象についても判断を示しています。こうした事象は一見すると所有者によって著作物の支配が行われているようにみえますが、それは、所有権の効力に過ぎず、著作権には影響を及ぼさない、とも言っています。
さらに、物体としての美術品の所有者が所有権に基づいて著作物の複製等を許諾する権利を有するとの慣行が現実に存在したとしても、著作権法の著作物の保護期間の意義に照らして、そのような慣行は裁判所が法的規範として認めることはできない、とも言及しています。
【意義】
著作権法上、美術品の所有者は展示権については特例を認められている(著作権法45条1項)ものの、表現情報である著作物を支配する権利はなく、また、保護期間を過ぎた場合にもその秩序は変わらないことを示したものです。
【関連裁判例】
「かえでの木」写真使用事件(東京地裁平成14年7月3日判決):立派なかえでの木の所有者が、その木の写真を撮影したカメラマンと、写真を掲載した書籍を出版した出版社を所有権に基づいて訴えた事件です。裁判所は、写真の複製によって所有権が侵害されたということはできないとしました。