東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)

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柴垣美恵 展

開催情報

【期間】2023年10月24日(火)〜 11月5日(日)
【開館時間】12:00~18:00
【休館日等】月曜日
【料金】無料

https://gallerymorningkyoto.blogspot.com/2023/09/shibagaki-mie-exhibition-20231024tue.html

会場

会場名:ギャラリーモーニング
ウェブサイト:http://gallerymorningkyoto.com
アクセス:〒605-0034 京都市東山区中之町207番地(三条通白川橋東入四丁目、三条通広道東南角)
電話番号:075-771-1213

概要

降っている降りそうな降るような ・・ そんな景色の中に身を置いてみる。
降るものを目で追い、追い切れずには耳を澄まし、肌に感じる風や温度からそれらの出処や行き先を想像し、またそれを繰り返す。
「降る」を眺めている時間は、過ぎ行くというよりは心に蓄えられるようで、その体感、時を忘れて眺めた時間そのものを絵にしたいと思う。

 柴垣美恵

時間をながめ、「線」で描く   
Text : HIRAI Yoshinobu

ある日、馬が4頭並ぶ牧歌的な風景画を観た。柔らかな色彩で描かれたその絵を拝見していると、ギャラリーのオーナーがこの絵に秘められたエピソードを話してくれた。作家の名は柴垣美恵さんといい、広い牧草地にたくさんの馬が放牧されている様子を見るために岩手県の牧場へ行ったという。しかし、広い敷地に馬はこの4頭しかいなかったらしい。このエピソードを聞いてこの作家がなにかに恵まれた人物であることを即座に感じた。なんとも微笑ましく、聞いた人の多くが破顔一笑するであろうこうしたエピソードは狙って生まれるものではなく、その人柄が引き寄せるものであることを私は経験的に知っているからだ。

柴垣さんの作品は、にじみ止めのドーサ引きをしていない高知麻紙にアクリル絵の具で描かれたもので、色面とドローイングによって構成された世界にはゆったりとした時間が流れ、その人柄を表しているように思う。彼女は中の島美術学院や京都精華大学で学び、日本画の基礎も学んでいるが、いろいろ試して自身に合う画材を見つけたそうである。使い慣れた画材から生み出される画面は、呉春を始めとする四条派の作品を思い起こさせる。四条派は江戸時代後期以降の京都画壇で隆盛を誇った流派で、写生を基本としながらも簡略化した筆致で詩情豊かな山水画を描くことを特徴とする。近代京都画壇において竹内栖鳳という巨匠を生み出した流派である。柴垣さんの作品を見ていると、栖鳳門下の小野竹喬の作品が頭に浮かぶ。しかし、柴垣作品で特徴的な描線は、竹喬と同じく国画創作協会で活躍した村上華岳の線と似ており、作風はそれほど竹喬と似ているとは言い難い。ではなぜなのか。それは描く対象へのまなざしが似ているからかもしれない。竹喬の作品は、師匠である栖鳳から「素直なところがあってよい」と評されたことが知られており、あるがままの自然の様子を自身の俳諧的素養を加味して描いた穏やかで詩情溢れる風景画である。一方の柴垣さんも描きたいものが決まったら足を運んでスケッチをする。「見たままを描いているつもりです」と言う彼女の作品は、目にしたものを豊かな感受性と生まれ持ったセンスによって柴垣スタイルで描き出す。色面とドローイングの跡が心地よく調和しており、にじみがその二つをうまくつないでいる。両者とも実景に基づきながらそれを緻密に再現することはせず、感性というフィルターを通して情感たっぷりの画面に仕上げている。筆数を減らしながらも観る者に実景を感じさせるのは、対象をつぶさに観察できる目の確かさがあってこそで、その愚直なまでのまなざしの精神が共通しているのだろう。

ここで一つ訂正しておかなければならないことがある。先ほど私は「色面とドローイングによって構成された世界」と柴垣作品を形容したが、厳密に言うと誤りである。見た目には色面とドローイングで構成された画面でありながら、柴垣さんは「線を選んで描いている」と言う。直接お話を伺う機会を得て、このことについて質問すると、色面で塗っているように見える部分も「筆の幅を変えながら線を引くように描いている」と教えてくださった。彼女にとって作品は「線」の集積と言えるのかもしれない。確かに柴垣作品にはさまざまな線が使われている。太い線、細長い線、勢いのある線、にじむ線など、すべてニュアンスが違っていて面白い。最も特徴的な線はザラザラとした質感の線。これは粗い粒子の顔料を濃いめのメディウムで溶くことによって得られる質感とのことであるが、画面上で絶妙なスパイスとなって効いている。作品において色が重要な要素の一つとなる場合、にじみや濃淡によるグラデーションは効果的ではあるが、そればかりでは単調になってしまう恐れがある。そこに中国絵画に見られる擦筆のような色がかすれた線が加わることで、マチエールに変化が生まれ、画面全体を引き締める役割を果たしている。柴垣さん曰く、「その部分を描くのに適した「線」で描いている」とのことで、これだけの「線」を使いながら画面の調子が整っているのは、技量の高さとセンスの良さにほかならない。

今回のテーマは「降る」。雨が降る。光が降り注ぐ。落ち葉が降る。天から地へと「降る」動きを捉え、その時間を画面に閉じ込める。「閉じ込める」という言葉は彼女の絵にはふさわしくないかもしれない。なぜならその絵は「開かれた」ものであるから。彼女によって選ばれた「線」は対象の動きをも捉え、画面に写し取る。その躍動のリズムは画面内に収まることはなく、画面の外に広がる世界を観る者に想像させる。彼女は眺めた景色を時間ごと描いて観る者に共有してくれるのである。そして今回も普段通り、柴垣さんは描きたいテーマに合わせて現地に足を運びデッサンをする。雨合羽を着て重装備で雨降る景色をデッサンしたと聞いた。雨は鋭い線で描かれている。柔和な線を主体とする彼女にしては珍しい線である。その線は雨が天から地へと降り注ぐ動きを的確に捉えている。時間を描いた「線」のシンフォニーは今回も美しい旋律を奏でてくれるだろう。

平井 啓修 (京都国立近代美術館)

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