開催情報
【作家】大庭大介
【会期】2025年6月21日(土)~7月15日(火)
【時間】11:00~20:00 ※最終日のみ18:00まで
【料金】無料
https://store.tsite.jp/kyoto/event/t-site/47446-1738330521.html
会場
会場名:京都 蔦屋書店 5F エキシビションスペース
webサイト:https://store.tsite.jp/kyoto/
アクセス:〒600-8002 京都府京都市下京区四条通寺町東⼊⼆丁⽬御旅町35 京都髙島屋S.C.
電話番号:075-606-4525(営業時間内)
概要
大庭大介は1981年静岡生まれ。2007年、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画分野修了。
絵画を「光の場」としてとらえ、「視る」という行為そのものを探求しています。
大庭の作品において、光は単に対象を照らすものではなく、空間や時間を編成する力として一貫して扱われてきました。画面における像は、呼吸や視線、物質の振動が交錯するなかで生成され、完成されたかたちではなく、常に揺らぎの中にあります。
光の加減や鑑賞者の位置によって表情が変化する視覚的構造は、知覚の不確かさや視線の移ろいを喚起し、絵画に時間性と空間性を宿らせます。こうした体験は、「視る」という経験の複雑さや多層性を浮かび上がらせ、世界の見え方が常にひとつではなく、異なる視点の重なりによって現実がかたちづくられているのではないか、という問いを内包しています。
本展では、ホログラム塗料や金箔、プラチナ箔を用いた代表作に加え、光の角度や視線の動きによって虹色の輝きが変化する、特殊な表面構造をもつ新シリーズ《S》も発表されます。反射性のある素材や光に応答するマチエールは、鑑賞者と像とを動的な関係の中へと巻き込み、「視ること」の構造そのものを静かに揺さぶります。
絵具、時間、そして光の作用が織りなす視覚の揺らぎを通して、絵画の新たな可能性を追求する大庭の最新作を、ぜひご高覧ください。
アーティストステートメント
Contactee / Tied Light
照らされた者/結光
かつて地球は、「透明な監視対象」であったという仮説がある。
人類の誕生以前から、あるいはその瞬間から、すでにこの惑星は見られていた──
そう仮定するならば、私たちの「視る」という行為そのものも、別の視線の残響なのかもしれない。
人類が長く思い巡らせてきた、遠い知性や高次の視線の存在に、私はずっと惹かれてきた。
監視、観察、観測──そうしたまなざしの構造が、私たちの知覚や制作行為にどのような影響を与えているのか。
視線が“始まる前”の世界を想像することは、自らの「視る」という行為をいったん外側に置き直し、絵画という形式における知覚の構造そのものを問い直すための、小さな足場になっている。
私たちが「見ている」と信じているこの行為は、重力、時間、身体構造、言語、制度といった複数の条件に支えられた、局所的で暫定的な知覚の形式にすぎない。
その枠組みは、私たちという種に固有の構造に依存しており、他者的な存在や不可視の論理から見れば、まったく異なる像として立ち現れるだろう。
──世界は、私たちの見方を待っているわけではない。
ただ、偶然にもふれあう瞬間に、その都度異なるかたちで現れる。
これはもちろん、実証された事実ではない。
だが、それは知覚の構造を一度揺らがせ、「視る/見られる」という関係を逆転させる
思考の裂け目をつくる。
その裂け目の気配は、日々の制作のなかにもふと滲み出してくる。
深夜のアトリエで、私は絵と向き合う。
反射する画面に光が差し込むと、視線の起点が揺らぎ、
世界のほうから触れてくるような気配が立ち上がる。
光は、単に対象を照らすものではなく、空間や物質を編み直す力としてそこにある。
そのとき、「見ること」はもはや一方的な作用ではなく、
私という存在もまた、光とともに像の生成に巻き込まれていることを感じる。
麻の目の起伏が光に応じて立ち現れ、絵具の重なり、筆致の隆起、湿度の揺らぎ──
そうした微細な質感の差異をとらえながら、私は感覚を静かに織り上げていく。
箔や干渉性のある素材も、光とともにその響きを変えてゆく。
偶然の痕跡にふと立ち止まり、呼吸と視線を合わせながら、画面の声に耳を澄ます。
絵画とは、完成された像ではなく、「視る/見られる」という出来事が生成し続ける構造である。
視線と反射、身体の動きが呼応し、像は揺らぎながら、
知覚の奥に潜む、まだ定義されていない関係性をひらいていく。
そこで出現するのは、静止したイメージではなく、
「視る」という出来事のなかで動き続ける、構造の呼吸そのものである。
──像とは、完成されたものではなく、今ここで触れている現象の、刹那の編み目である。
描かれるものは、私の内面の表出にとどまらず、
知覚の枠組みが他者的な論理に触れながら書き換えられていく過程で立ち上がる痕跡である。
「世界」と呼ばれるものが、異なる知性にはまったく別の像として現れるかもしれない──
その可能性を問い続けること──それが、私がなぜ描くのかという問いに、いまも静かに接続している。
なぜこのような作品をつくるのか。
それは、「視る」という行為そのものが、他者との関係性の原型のひとつであり、
世界をどう感じ、どう結び直していけるかという問いに直結しているからだ。
人間の知覚の限界をわずかに撓ませることで、
まだ共有されていない感覚や、名づけられていない世界の断片が立ち現れる。
私にとって絵画とは、そうした微かな兆しにそっとふれ、
他者へひらき渡すための、最も静かで根源的な応答なのである。
それは、明晰でありながら、人間的ではない。
透明でありながら、他者である。
照らされた者としての私は、「視る」という撓みのなかで、
まだ名づけられていない世界の輪郭に、ふれようとしている。
アーティスト・プロフィール
大庭大介(Daisuke Ohba)
1981年静岡県生まれ。画家。2007年、東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻油画分野修了。
近年の主な展覧会に、2024年「Flare」(Tiger Gallery/ロンドン)、2023年「センス・オブ・ワンダー:感覚で味わう美術」(静岡県立美術館/静岡)、同年「AWT FOCUS『平衡世界 日本のアート、戦後から今日まで』」(大倉集古館/東京)、2020年「New Paintings from Kyoto」(LOOCK Galerie/ベルリン)などがある。国内外の美術館やギャラリーで継続的に作品を発表している。
また、クリスチャン・ディオールによるアーティストプロジェクト「DIOR LADY ART #6」に参加し、同ブランドのアイコンバッグを再解釈。「House of Dior Ginza」ではエントランス壁画を手がけ、店内には作品も所蔵されている。
さらに、2023年に開業した虎ノ門ヒルズ ステーションタワーには、大型絵画2点が恒久的に設置されている。