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エキシビション メーカーⅡ

開催情報
【期間】前期:2026年10月10日(土)~ 11月1日(日)/ 後期:11月14日(土)~ 12月6日(日)
【開館時間】13:00~18:00
【休館日】火・水・木曜日
【料金】無料

会場

会場名:アートゾーン神楽岡
webサイト:https://www.kyoto-artzone-kaguraoka.com
アクセス:〒606-8311 京都府京都市左京区吉田神楽岡町4
電話番号: 075-754-0155

概要

本展について

「エキシビション メーカー」とは、キュレーターという言葉が定着する以前の1990年代初頭、キュレーターのハラルド・ゼーマンが自らを「展覧会を作る人」と称したことに準拠する。僕は2024年にワタリウム美術館にて同名の展覧会を企画したが、本展はその流れを汲みつつ、さらに「版画」というメディアに特化した企画である。

僕が町田の版画工房カワラボで版画制作を始めたのは2023年のことだ。わずか1か月の間に約200点もの作品を生み出せたのは、工房との濃密な協働があってこそだった。

日本の版画界には、いまなお創作版画運動の影響が強く残っている。作家自身が描き、彫り、摺る「自画・自刻・自摺」の精神が版画家としての自我を担保し、作家と工人を兼ねることが自明視されてきたのだ。では、ここで言う版画工房とはなにか。たんにプレス機を貸し出すレンタルスタジオでも、大学や美術館の付属施設でもない。版画を刷ることを生業とする職人が運営する民間組織のことだ。

材料の高騰、版画に欠かせない主要製品の相次ぐ廃番、版画愛好家の減少、版画工房を取り巻く環境は悪化の一途を辿り、いまや斜陽産業であり絶滅危惧種と言っても過言ではない。

それでもカワラボは日々絶え間なく版画を刷り続け、版画制作のためのプラットフォームを維持している。版画工房はあらゆる版種やオーダーに柔軟に応えつつ、誤差やズレを味わいとして計上できないシビアな職人の仕事によって成り立っている。美術大学の版画コースのように教員自身の技術や方法論の伝授に終始するのではなく、広い知見とオールマイティーな対応力が求められる。

僕にとってカワラボは、たんにプロダクトを制作するスタジオではない。街に存在する個人商店としての佇まいや、運営の舞台裏を含めた物語を紡ぐ場所である。2か月間の住み込み制作を通じ、僕はカワラボのバイオリズムや信条を理解してきたつもりだ。カワラボは真に人生を版画に投じている真剣な場であり、作家の気まぐれな態度では太刀打ちできない。

しかし、僕個人が版画作品を作り続けるだけでは、ムーブメントにはなり得ない。そこで立ち上げたのが「楽しいプリント倶楽部(仮)」である。普段は版画を作らない作家をカワラボに招き、工房を介して新たな作品を世に送り出すというたいへんシンプルな試みだ。

ゲスト作家と工房との距離感はさまざまだ。漫画家の西島大介や現代美術家の彦坂尚嘉のように技法の提案だけでスムーズに進むこともあれば、主題やプロセスにまで踏み込まなければ成立しないこともある。本展におけるエキシビション メーカー(企画者)は、展覧会の趣旨に作品を当てはめるキュレーターの枠を超え、出品作家であり、プロデューサーやプランナーでもある。そして何より優先されるのは、制作された版画が各作家のポートフォリオにおいて良い効果を発揮するかどうかだ。なお、僕のこのプロジェクトは報酬目的ではなく、あくまでも版画工房を再活性化させるための切実な営為である。

本展にはゲスト作家に加え、カワラボのチーフプリンター・河原正弘、スタッフの今泉奏、元研究生の佐藤英里子、さらには河原の前職での同僚であり美術家・梅沢和木の父でもある梅沢和雄も参加する。本展にはひとつの展覧会には収まりきらないほどの多層的な情報と人間模様が渦巻いており、端正に剪定されたプロポーションの展覧会とはかけ離れたものになっている。

本展のタイトルにある「小コレクター運動」とは、1950年代に美術評論家の久保貞治郎(晩年は町田市立国際版画美術館の初代館長を務めた)が提唱した運動に由来する。市民に3点以上の作品所有を促すこの運動は、美術の担い手を増やし、文化の土壌を耕す役割を果たした。作品を複数化することによって単価を下げ、広く作品を届けるメディアである版画は、ある程度売れなければ経済的に成り立たない。しかし、現代においてただ鑑賞者に購入を促すだけではそのへんの広告と変わらない。

ところで本展の参加メンバーには、すでに「小コレクター」の域を超えた情熱と狂気を抱える者たちが名を連ねている。出品作家の浦川大志は、30代前半にしてすでに約500点の作品をコレクションし、工房での制作中にも他の作家の完成前の版画を買おうとするほどのコレクター魂を垣間見せた。僕自身も毎月最低1点は作品を購入し続けている。カワラボの河原は6,000枚以上のレコード・CDと大量の骨董品に囲まれて暮らし、会場であるアートゾーン神楽岡は、ギャラリーの核となる15,000点もの膨大な版画コレクションを擁している。本展には、アートゾーン神楽岡のコレクションから厳選された作品も同時に並ぶ。

今日、版画をめぐっては「間接技法ゆえの偶然性」や「デジタルも複製技術だから広義の版画である」といった紋切り型の謳い文句が横行している。作者のコントロール外の領域で作品に超越性を付与したい、あるいは最新テクノロジーを引用して現代性を主張したいという気持ちは理解できる。しかし、僕が考える版画の面白さとは、たんなる印刷物でありながら芸術でもある、という両義性にこそある。

版画は、作家の造形力、判断力、瞬発力、そして工房との領域の入り組み具合を容赦なく暴いてしまう怖いメディアだ。たとえば出品作家の浦川の場合は思うように制作が進まず「絵づくり」自体に工房が最も介入しサポートすることになった。対して、安藤裕美は敢えて特別な技法は使わずニードル1本で描き切る。

本展は、そんな人生を賭けて版画を作り、集める者たちの執念の磁場によってかたちづくられている。

生活に寄り添うかたちでZINEやリソグラフを嗜むのを否定するつもりはない。しかし僕は、いまやロストテクノロジーと化しつつある版画の実存に切り込む者、そしてそこに巻き込まれてしまった者たちの熱量に賭けたい。そしてこの試みは、一度きりではなく継続してこそ価値を持つはずだ。

紙に転移するのは、インクだけではない。それは人間が脈々と受け継ぎ共有してきた技術体系の一端にほかならない。それを眼差す僕たちの感受性が版画のありようを理解しようとする前に手放してしまうのだとすればあまりにも惜しい。インクのベタつきをタック、なめらかさをフローと言うが、そのような物理的性質への感度、想像力こそが世界に触れることでもある、とは素朴過ぎるだろうか?

梅津庸一(美術家、パープルーム主宰)

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