「クール・ジャパン」のその後と表現:高嶺格インタビュー
Tadasu Takamine Interview

5 ガマンしないということ

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ガマンの部屋 「高嶺格のクールジャパン」2012-2013年 水戸芸術館現代美術ギャラリーでの展示風景
撮影:細川葉子 写真提供:水戸芸術館現代美術センター

 
—秋田の大学にはいつまでという契約はありますか?それとも定年までですか?
 
いつまでっていうのは特に…。こればかりはやってみないとわからないです。
でもあんまり嫌なことは我慢したくないですね。
 
—その、嫌なことを我慢しないということは大切ですか?
 
その自由はなるべく担保しておきたいですね。
今日も車を運転しながら考えていたんやけど、自分が好きなことを仕事にできてる人って一握りじゃないですか?で、ほとんどの人は食うために仕事してて…その負の感情は、社会に対する復讐みたいな形で蓄積していくと思うんです。自分が幸せでないとしたら、それが自分のせいではなくて、社会のせいだ。それはある意味、真理なわけやから、そんな状態が続くと社会なんか良くなりっこないですよね。
 
—だから高嶺さんはなるべく我慢をしないでおこうと、本能的に?
 
うーん、いや、だれも我慢なんてしたくないですよね。
 
—でも、麻痺してしまうとわからなくなりますからね。
 
その方が楽やしね。いつでも自分の感覚に自覚的でいるというのはしんどかったりしますからね。でもそれは決していい状態ではないですよね。
 
—そうですね、お伺いしていると、自分が嫌だということについて、ちゃんと反応するということは厳しい現実社会で生きていく上でのサバイバル術としてとても大事だと聞こえました。
 
ああ、そうです、そうです。自分がイヤだと思うことを少なくしていくことって、一見自分のため、エゴみたいに聞こえるかもしれないけど、それは結果的には社会にとって絶対にプラスになると思っています。
 
—でもひょっとするとそれは、「こんな気持ちいいんやー」とか、快の状態を経験したことがない人には気がつきにくいことかもしれないですね。
 
いやいや、でも僕は、若い頃は、結婚とかようできるなと思ってて。世界中に何十億人って女の人がいるわけじゃないですか?その全員と会ってみない限りは、たった一人とか選べへんはずやのに、なんでそんなにみんな、コロって決めて結婚できるんやろうかと思ってましたね。知りたいってもっとみんなは思わないのかな?って。
 
—確かに(笑)。
その、個人個人が知りたいことをどんどん追求していくことは社会の平和につながると思いますか?

 
思いますね。
 
—そこって、喧嘩にならないのでしょうか?欲しいものが同じだったりすると…。
 
ま、喧嘩したらいいんですよね(笑)。
目指すっていうことは大事なんやけど、それが実際に叶えられるかどうかというのは別の話やから、そこで目指すことをやめてしまって、現状の自分を肯定をするために復讐に走ったり、というのが、僕は嫌なんです。
 
—なるほど。志の高さは大切かもしれませんね。でも実際あらゆることを一人の人生のうちで経験するというのは難しいので、個人的には、そこはアートに期待するところです。
そして、目標は高く。

 
もっともっとですね。

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