美術表現に関わる近時の国内規制事例10選(1994-2013)
10 recent cases of restricted artistic expression in Japan [1994-2013]

E 公共空間の使用の規制

公共空間の使用規制については、縦割りの管轄による許可取得へのプロセスの複雑さと官僚的対応の問題が大きく、これらは事前規制の一環であること、また公共空間自体は多岐にわたり選択肢が少ないわけではないこと、さらにゲリラ的な形態での使用も可能なことから、具体的な弊害が見出しにくい。しかし近年では逗子市が制定した海水浴場での音楽等を規制する条例(http://www.asahi.com/articles/ASG2T5J6YG2TULOB03G.html )等、より厳しい規制を実施する自治体等も出てきている。また事例10のChim↑Pomの事件のように、微罪とはいえ法の網にかかって刑事罰を課される可能性のある行為に該当する美術(芸術)表現は多く存在する。

さらに、公的空間に露出した私的財産(例えば私有地の公開空地や私有不動産に設置されたビルボードやモニター、広告等)についても、そのシンボル性故に様々な懸念が生じる。大型・公共美術館での展示を巡る問題と類似してきている。一方でそのことを逆手に取った美術表現もある。

こうした状況から、国内ではいわば、公共的空間を利用すること自体が一種のタブーとなっているとさえ言える部分があり、これと、いわゆるホワイトキューブからの離脱という美術的文脈が未だに複雑に絡み合い、いわゆるパブリックアートの議論と別に、独自の緊張感や高揚感を生み出している側面も見受けられる。

 

【事例9】F/T(フェスティバルトーキョー)「個室都市東京」修正要求(2009.9~10)

池袋の西口公園とその周辺で行われたパフォーマンス作品。池袋の夜の街で怪しく目立つ「個室ビデオ店」を模倣した仮設の小屋をたて、その中で、池袋西口公園にいる人たちの生の声のインタビューのDVDを本物の個室ビデオ店のように観客自身が選んで個室で1時間以上観覧し、さらにそこを出て街の中を目印を見ながら一人彷徨し、最後は空き店舗を利用した「出会いカフェ」を模した空間の中で、ビデオに出演していた人たちに実際に出会い、逆にインタビューされるという構成である。

作品の公開に先立ち、共同主催名義であった地元の豊島区の役人が、この作品の観客を勧誘する方法を変更するように作家に指示した。実際の夜の街の店と同じようにティッシュペーパーに広告を入れて呼び込もうとしたところ、行政が「浄化」しようとしている夜の街の行為を肯定する作品に加担しているように捉えられるという理屈である。こうした役人の要求に対して作家は制約を受けたと感じたという。


【参照】

高山明「個室都市東京」(2010年 Port B刊)

 

【事例10】Chim↑Pom 岡本太郎絵画追加事件 (2011.5~7)

美術家のChim↑Pomは、2011年5月に渋谷駅構内に設置されている、第五福竜丸が被曝した際の水爆の炸裂の瞬間を題材にした岡本太郎作の壁画「明日の神話」の右端部に、同作品を拡張して一体化するような、福島第一原発事故を題材にした同じタッチの作品「Level 7 feat. 明日の神話」を、無断で設置。同年7月、軽犯罪法違反(はり札)容疑で書類送検されたが、Chim↑Pom公式サイトによれば、同年11月に不起訴処分となった。


【参照】

http://chim-pom.syncl.jp/?p=custom&id=13339952

http://haps-kyoto-com.check-xserver.jp/haps-press/art_precedents/arts_and_law/24/

【関連事例】

東京都ヘブンアーティスト事業http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/bunka/heavenartist/ 海外の資格認定制度と東京都公園条例を参照した規制。オーディション合格者のアーティストにはメリットが生まれる一方、アーティスト側の意見を聞かずスタート、夜間の活動も原則禁止(ほとんど可能な場所がない)

宮下公園アーティスト・イン・レジデンス

http://airmiyashitapark.info/wordpress/

映画「BAD BOYS」ロケ地協力拒否(2010.5) 「広島FC、認定得られず 「暴走族」映画協力拒否」」中国新聞2010/7/24http://megalodon.jp/2010-0724-0617-53/www.chugoku-np.co.jp/News/Sp201007240089.htmlウェブ魚拓保存

 

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