B 政治的・法的・倫理的意識に基づく抗議および自主規制
近年、公立美術館、あるいは私立であっても比較的規模の大きな美術館、あるいは国や有名企業が関わる作品や展覧会は、様々な側面からの社会的責任が問われている。これは言い換えれば、様々な社会的勢力からの干渉や圧力を受けている、あるいは受ける可能性があるということである。
美術館という専門機関や公的・私的な主体が、社会的勢力からの圧力にどのように対処すべきかということについては一義的には答えは出ない。ただ、美術専門職による美術的観点からの判断というよりも、「トラブル回避」や「一部の人々の感情を傷つけることを避ける」「政治的な議論を避ける」といった傾向が「社会的責任」「コンプライアンス」「適法性」といったキーワードと結びつけられて、消極的な判断がされがちであることについては懸念がある。手続きがどうあれ、中止や変更は、開催する主体の本来の社会的責任の不履行といえる場合もあり、また作家や観衆等の文化的権利の侵害となる可能性もあるためである。それらを無視して「社会的責任」「コンプライアンス」「適法性」を判断するのは一面的であると言わざるを得ない。本稿の取り扱う時期的範囲から外れるが、2014年に東京都美術館で発生した、展示作品へのクレームを恐れて作家の意に反する事前変更を要請したケース(http://web.archive.org/web/20140219090014/http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2014021902000136.html (archive.org保存))も、こうした懸念が現実化した例といえる。
【事例4】目黒区立の美術館における「原爆展」中止(2011.3)
2011年3月、目黒区美術館で開催が予定されていた「原爆を視る1945-1970」展が、直前の東日本大震災および原発爆発・放射能漏洩事故の発生により自粛的な形で延期になり、結局そのまま中止された事例。
【参照】
図録用原稿を依頼されていた加島卓がブログで当該原稿とともに、報道をまとめて掲載している。
http://d.hatena.ne.jp/oxyfunk/20110402
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