HAPSは、このたび「公立美術館のエコロジー:障害者等の文化芸術活動の可能性を拡張し、共生社会実現のための象徴空間のあり方を可視化する」事業の一環として、東京国立近代美術館主任研究員の成相肇氏をゲストキュレーターに招聘し、展覧会「キュレーションを公平に拡張する vol.3 (こどもの)絵が70年残ることについて」を開催いたします。
「キュレーションを公平に拡張する」は、HAPSが文化庁より受託する「障害者等による文化芸術活動推進事業」の一環として、2022年度から継続して開催している展覧会シリーズです。現代美術を専門とするキュレーターは、プロジェクト型の作品やパフォーマンスを含む作品、アーカイブの展示など、従来の展覧会制作にかかる業務を常に拡張してきたといえます。
本シリーズは、こうした気鋭のキュレーターの知見を、障害のある方が芸術活動を行う現場や環境と接続することにより、開かれたアートシーンの形成をめざす試みです。
第3回目となる「(こどもの)絵が70年残ることについて」では、障害者支援施設である「落穂寮」と「みずのき」に残る絵をもとに、「障害」という属性に遡る「こども」という時間軸から、評価と属性についての判断に一石を投じます。ぜひご高覧ください。
【概要】
展覧会名|キュレーションを公平に拡張する vol.3 (こどもの)絵が70年残ることについて
会期|2025年2月4日(火)〜2月23日(日・祝)12:00〜20:00 会期中無休
会場|MEDIA SHOP | gallery(〒604-8031 京都市中京区河原町三条下る一筋目東入る大黒町44 VOXビル 1F)
入場料|無料
ゲストキュレーター|成相肇(東京国立近代美術館主任研究員)
主催|文化庁、一般社団法人HAPS
制作|一般社団法人HAPS
協力|社会福祉法人 椎の木会、みずのき美術館
調査協力|一般財団法人たんぽぽの家、認定NPO法人クリエイティブサポートレッツ、ぬか つくるとこ
公立美術館のエコロジー:障害者等の文化芸術活動の可能性を拡張し、共生社会実現のための象徴空間のあり方を可視化する(文化庁委託事業「令和6年度 障害者等による文化芸術活動推進事業」)
【キュレーター ステイトメント】
「障害とアート」という主題は、複数のサブジェクト ——制作主体、支援(指導)主体、 評価主体—— の政治学的な結びつきによって構築されたひとつの制度です。この制度の特殊性は、第一に、この制度が制作主体の属性に規定されていること、第二に、支援主体と評価主体が依拠する価値の尺度において、制作主体と密接した福祉的評価と「アート」単独の評価の二軸が交差していることにあります。
「アール・ブリュット」「エイブル・アート」「セルフトート・アート」「障害者アート」等のそれぞれ部分的に重複しあう様々なカテゴリーの名称はいずれも、数あるアートをめぐる言説の中で例外的に、制作主体の属性の設定に主眼があります。何より、様々な名称が提案されるそのこと自体が、いま書いた特殊性に由来しています。
そしてこの特殊性ゆえに、 残されてきた絵がある。
「障害とアート」という主題が掲げられるとき、その後半部、すなわち自明性の不確かな 「アート」に視線が注がれることが常ですが、今回は前半部に力点を置きたいと思います。障害者を含む、誰もが必ず通過する「こども」に、いったん属性を置きなおしてみることが、この企画の趣旨です。
仮に、「こども」の表現が高く注目された1950年代から60年代に時代を絞ることにします。障害者支援施設「落穂寮」(滋賀県)と同「みずのき」(京都府)に残る絵とともに、同時代の「児童画」にまつわる資料を展示します。 規模の小ささに見合わないかもしれませんが、 ひとつの制度を脱構築する機会となれば幸いです。
成相肇(東京国立近代美術館 主任研究員)
【出展作品】
【関連トークイベント】
日時|2025年2月9日(日) 15:00〜16:30
会場|Frame in VOX(展覧会会場と同じ建物の3F)
定員|30名 ※要予約
入場料|無料
登壇者|成相肇、奥山理子[みずのき美術館キュレーター、Social Work / Art Conference(SW/AC)ディレクター]
ご予約|https://on-childrens-paintings-being-kept-for-70-years-haps.peatix.com
【プロフィール】
成相肇(なりあい はじめ)
東京国立近代美術館主任研究員。府中市美術館、東京ステーションギャラリーを経て2021年から現職。戦後日本の前衛芸術を中心に、ファインアートとその周縁に流動する視覚文化を研究、雑種的な複製文化と美術を交流させる領域横断・拡大的な展覧会を企画。主な企画に「石子順造的世界」(2011-12年)、「ディスカバー、ディスカバー・ジャパン」(2014年)、「パロディ、二重の声」(2017年)など。著書に『芸術のわるさ コピー、パロディ、キッチュ、悪』(かたばみ書房、2023年)。
奥山理子(おくやま りこ)
みずのき美術館キュレーター、SW/ACディレクター。京都府京都市出身。みずのき美術館の立ち上げに携わり(2012)、以降企画運営を担う。アーツカウンシル東京「TURN」コーディネーター(2015-2018)を経て、2019年よりHAPSの「文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業」に参画し、相談事業「Social Work / Art Conference(SW/AC)」ディレクターに就任(2020年〜現在)。東京藝術大学Diversity on the Arts Project非常勤講師。京都市芸術新人賞(2024)。
【「キュレーションを公平に拡張する」について】
この展覧会は、これまで「アール・ブリュット」などの名称で呼ばれてきた障害がある人たちの表現領域を、現代美術の分野で活動してきたキュレーターが調査し、企画するものです。近年、障害のある人たちの表現活動は大きく発展し注目も集めています。しかしそこには、彼らの表現を、特別なものとみる視点が存在していることも確かです。「芸術家」や「作品」といった概念は誰がどのように決めてきたのでしょうか。彼らの作品を見るときに自然に浮かんでくるこの問いから、私たちは、当たり前のように使われてきたこれらの言葉について、いまだ十分に議論が尽くされていないことに気付かされます。個人のこだわりから生まれる何かが、表現になり、社会に出て広く他者に共有される「作品」になる。これらの概念は、本来このプロセスの過程で、その都度考察され、更新されるべきものではないでしょうか。こうした考え方を、一般社団法人HAPS とキュレーターが共有した上で生まれたこの展覧会が、障害のある人たちの表現活動が広がる、一つのきっかけになることを願っています。
(一般社団法人HAPS)
◆これまでに実施した展覧会アーカイブはこちらからご覧いただけます:https://haps-bunka.space/pilot/