HAPSは、京都市にゆかりある若手アーティストの作品販売を支援するため、アートのオンラインマーケットプレイス「OIL by 美術手帖」にオンラインギャラリー「HAPS KYOTO」を出店するとともに、「HAPS KYOTO」の出展作品をオフラインで直接ご覧いただく展覧会シリーズ「HAPS KYOTO selection」を定期的に開催しています。
この度、「HAPS KYOTO selection」第6回として、アーティストであり、展示企画や執筆でも活躍する宮崎竜成をフィーチャーし、HAPS KYOTO selection #6 宮崎竜成「グレゴリオの疲弊/東山区」展を開催いたします。
宮崎は「リズム」をキーワードに、作品制作から作家自身の生きる環境の構築に至るまでの幅広い活動を行うアーティストです。本展タイトルの「グレゴリオの疲弊」は、私たちが日常で使用しているグレゴリオ暦に由来します。現在においても世界標準として使用されている暦の中で生きる私たちは、生活に根ざしていた時間の感覚や季節の移り変わりを、一定の「数」として把握しています。そのことは利便性をもたらす一方で、暦を定める権力の存在や、無限にも感じられる定量的な時間の連続により、私たち個々の「時間」の感覚を衰微させていないかと宮崎は考えます。
本展では、時間と自身の身体の感覚を知覚するための「時計」を用いた、宮崎による24時間をかけたパフォーマンスを通じて、質的な時間の感覚を鑑賞者が追体験します。
ぜひご来場の上、ミクロとマクロを往還する「リズム」をご体験ください。
■概要
イベント名|HAPS KYOTO selection #6 宮崎竜成「グレゴリオの疲弊/東山区」
会期|2024年11月24日(日)〜12月27日(金)
会場|HAPSオフィス1F(京都市東山区大和大路通五条上る山崎町339)
鑑賞時間|18:00〜9:30(翌日朝)
休館日|会期中無休
料金|無料
主催|一般社団法人HAPS
【展示作品について】
0時から24時までの24時間のあいだ、演奏を行うサウンドパフォーマンス。舞台には丸い形をした打楽器(接触すれば音がなるもの)が円形に24個並べられている。演奏では円形に並べた24個の打楽器を1時間ずつ時計回りに演奏する。会場には暦の歴史についてのドローイングが吊るされており、それが演奏のスコア(楽譜)の役割をもつ。このスコアは展覧会初日の京都府に面した海の潮の満ち引きの高さに合わせて山なりに描かれており、パフォーマンスではその高低差に合わせて、演奏する音をルーパーで重ねたり、強弱をつけたりしてゆく。
また、楽器の周りにはライトが12個置かれており、壁のスコアを照らしている。ライトは2時間につき一つ、時計回りに消えてゆく。ライトが消えることによって見えなくなった壁のスコアは演奏が終わったことを意味する。
こういった演奏装置、は量的にではなく質的に時間を知覚するための時計であり、ミクロとマクロのさまざまな周期やリズムが複合してできている。(宮崎竜成)
※宮崎の作品は2024年11月24日(土)18:00よりアートのオンラインマーケットプレイス「OIL by 美術⼿帖」で購入が可能になる予定です。
※本展はHAPSの東山オフィス1Fに展示された作品を、ウィンドウ越しに建物の外からご鑑賞いただく形式となります。終夜のご鑑賞が可能です。
■ステイトメント
「11月か、もうすっかり寒くなってきたなぁ」。
ふと、季節の変わり目を感じながらスウェットを着ようとする際に、その温度感覚よりも数字が先行していることに気づく。着替えた後で手に取ったスマートフォンに入れられた「Lifebear」というアプリには夥しい量のスケジュールが刻まれており、1時間単位で私の行動が分節されている。
「忙しいところすみません」。
連絡するときもされる時も、親しければ親しいほどこの一文から始まる。打ち合わせ日程をすり合わせるために、日程調整の数字の羅列に○と×を記入し続ける。
暦は人類が発明した最もマクロなリズムの単位であり、それは太陽や月の周期といった天文学的な規則性によって裏打ちされてきた。月の周期で潮が満ち引きし、太陽の周期で季節が変化する。こうした変化の周期に合わせて、人々は農作や漁業を行ってきた。現代においても、暦の周期は私たちの生活リズムや、ひいてはその集合である社会システムを形成する根本的な構造を担っている。それは、言い換えれば、暦は人々にとっての時を支配する装置であることをも意味しており、暦の策定や改訂の歴史は、時の権力者の統治の歴史と表裏一体であった。
かつて用いられたユリウス暦は、太陽暦をベースとした極めて高精度な暦として策定され、権力の誇示としても利用されたが、そのユリウス暦をキリスト教の物語として描き直したものが、現在、世界で最も用いられており、日本でも採用されているグレゴリオ暦(西暦)である。
グレゴリオ暦は季節の節目に設定される祝祭をキリスト教の物語へと置き直し、キリストの誕生を境に紀元前/紀元後とする。全ての始まりがA.D(Anno Domini*主の年)であり、此処から先は無限にキリストを起点とした時間が単線的に延び続ける。
現在、私たちのどれだけがキリスト教の物語と日々の生活を質感として重ね合わせられているだろうか。少なくとも私にとってそこには大きな乖離がある。乖離することによって形骸化した暦の数字は、身体と時間との関係を量的な規格の中で把握し、分節するものとなった。その結果、加速する情報と資本の流通の中で、「タイパ」と称していかに「数字の中」を効率よく埋めていくかどうかが、「うまく生きる」ことの処世術になりつつある。
量的な時間の中で時を歩むことは、無限に引き伸ばされた現在の中で走り続けるような、終わりのない疲弊を感じる。一方、畑仕事をする農耕者は、日没の夕焼けの眩しさをきっかけに身体の疲れを感じ、ある種の達成感を伴った疲労として身体を分節していたはずだ。
しかし、私はそんな過去の生き方に戻ることを提案したいわけではない。こうした現代の構造にありながら、そしてその構造の中で、まず数値化されない質を享受するところから、時間と自身の身体との感覚をキャッチする装置を空間にブチ込んでみる。それがこのたび展示するグレゴリオ暦を噛み砕く「時計」であり、「演奏」であり、「音楽」である。(宮崎竜成)
◼️アーティストプロフィール
宮崎竜成(みやざき りゅうせい)
1996年京都府生まれ、石川県在住。2023年金沢美術工芸大学大学院美術工芸研究科博士後期課程修了。
あらゆる物事が固有にあるということと、それがある連続の中の一つであるということとを同時に含むことを「リズム」として捉え、それを手がかりに固有のものが固有のままあるまとまりを持つ運動の形をあらゆる手段でつかまえようと模索中。それは時に絵画や音楽といったメディアと結びついた作品になったり、自分自身が生きている環境のインフラ構築へと向かったりしている。主な展覧会に「福光ネオ地鎮祭」(福光まちなか文化祭、富山、2024)、「蠢」(CSLAB、東京、2024)、「極悪Egregious」(ASTER、石川、2023)、「密室、風通しの良い窓、ぎこちないモンタージュ」(名古屋市民ギャラリー矢田、愛知、2022)、「その声は歌になるか、その音は律動するか」(彗星倶楽部、長野、2020)など。
◼️参考作品
◼️HAPS KYOTOについて
HAPSではアーティストの活動環境の向上、アート市場の活性化、アーティストとコレクターの新たな関係づくりを図るため、アートのオンラインマーケットプレイス「OIL by 美術手帖」にオンラインギャラリー「HAPS KYOTO」を出展し、京都にゆかりある作家とその作品を紹介・販売しています。今後の飛躍が期待される若手や商業ベースに乗りにくい作家、京都のアートシーンに確かな足跡を残してきた作家をHAPS独自の視点でセレクトし、収益は各作家ならびに今後の作家支援に還元されます。若手から中堅まで、性別を問わず、障害の有無を問わず、美術/工芸やハイアート/サブカルチャーなどの垣根を超えて、HAPSにしかできない方法で「多様な表現」のあり方を守り、発展させることを目指します。
現出展作家:阿児つばさ/上田要/金氏徹平/清水宏章/黒川岳/小林椋/リュ・ジェユン/武内もも/谷澤紗和子/HABURI/藤田紗衣/水木塁/迎英里子/八幡亜樹/山﨑愛彦
作品販売ページ:https://oil.bijutsutecho.com/gallery/277
これまでのHAPS KYOTO selection:https://haps-kyoto.com/category/news/hapskyotoselection/