開催情報
【作家】スピロス・バラス(Spiros Baras)
【期間】2025年12月2日(火) 〜 12月14日(日)
【時間】11:00-18:00
【休館日等】月曜
【料金】入場無料
詳細:https://www.g77gallery.com/ja/longing-for-summer
会場
会場名:Gallery G-77
住所:〒 604-0086京都府京都市中京区中之町73-3
webサイト:https://www.g77gallery.com/ja
概要
本展では、ギリシャ出身のアーティスト スピロス・バラス(Spiros Baras) による、鉛筆ドローイングと数点の水彩作品を紹介します。
バラスのドローイングは、抑制された筆致と光に満ちた静けさの世界を描き出しています。テクスチャーのある紙に色鉛筆で丹念に描かれたそれらの作品は、重さや影、そして雑音を拒むような繊細さを湛えています。色彩は幾重にも重ねられた層の中で呼吸し、紙そのものが光を含むかのように見えます。
モチーフは、島の風景や建築の一部、親密な肖像、そして日常の穏やかな情景まで多岐にわたります。海、丘、肌、空気といった本質的なトーンへと還元されたイメージは、時を超えた静寂の中に浮かび上がります。光は拡散し、地中海的でありながら内省的で、登場する人物たちは記憶と夢のはざまに存在しているかのようです。
そのシンプルな構成の奥には、正確で繊細な感情の緊張が潜んでいます。わずかな憂愁と夏への憧れ——それは展覧会タイトル「Longing for Summer(夏への憧れ)」にも響き合う感情です。眠る猫、物思いにふける女性、遠くの丘に輝く教会——世界がゆるやかに歩みを止める瞬間を、観る者に思い起こさせます。
バラスの限られた色彩と平面的な構成は、初期モダニズムの感性を想起させながらも、彼自身の人間的で思索的な温かさに満ちています。彼の水彩作品もまた、光が一瞬世界を照らして消えていく、その儚さへの瞑想として見ることができるでしょう。
現代美術の文脈において、スピロス・バラスは独自の位置を占めています。華やかさや過剰なデジタル性、概念的な誇張から距離を置き、ドローイングを感覚的で瞑想的な行為として取り戻しています。
一見すると、彼の構図はミニマル・リアリズムやポスト・ミニマル的な具象に近いように見えますが、その本質は様式よりも詩的です。影の不在、色彩の節度、修道的ともいえる精密な筆致は、ポストフォトグラフィック・ペインティングやニュー・シンセリティ運動に通じる、親密さや触覚性、日常への回帰を思わせます。
控えめな家々、静止した身体、くつろぐ動物たち——それらのイメージは「静止すること」をひとつの抵抗として提示します。皮肉や喧騒、政治的スペクタクルに満ちた現代において、バラスは深く人間的な注意のあり方を育みます。ほとんど蒸発するような光の層が、記憶と場所が階層なく共存する思索の空間を生み出しているのです。
多くの現代画家が物質性を極端に追求する中で、バラスの制作は「引き算」によって特徴づけられます。空気や静寂、紙の呼吸そのものを作品の一部として取り込み、余白の中に生命を感じさせます。この点で彼は、ピーター・ドイグやジョルジョ・グリッファといった作家たち、さらには雰囲気とニュアンスを重んじる現代日本の画家たちと共鳴しています。
スピロス・バラスは、現代の視覚文化におけるひとつの逆流を体現しています。彼のドローイングは懐古ではなく、もう一度「見る」という行為を取り戻すための静かな提案です。ゆっくりと、やさしく、そして思いやりをもって世界を見つめ直すこと—それが彼の作品が私たちに促す眼差しなのです。