開催情報
【作家】渡邉敬介
【期間】2025年6月10日(火)~6月29日(日)
【時間】11:00-18:00
【休館日等】月曜
【料金】入場無料
https://www.g77gallery.com/ja/music-is-music-exists-2025
会場
会場名:Gallery G-77
住所:〒 604-0086京都府京都市中京区中之町73-3
webサイト:https://www.g77gallery.com/ja
概要
本展では、線が生きた存在として立ち現れます。息づかいのように、ささやきのように、そこにいた証として。渡辺敬介による最新の紙上作品は、小さな親密なドローイングから大きな巻物まで、多岐にわたります。裸体のスケッチと、京都を中心とした風景のプレネールドローイングという、いわば異なるふたつの世界を往還しながら、そのすべてを貫いているのは「線の身振り」です。線はただ描くのではなく、耳を澄ましながら紙の上を風のように漂います。
これらのドローイングは、記録としてではなく、「見ること」と「感じること」の音楽的な記譜として集められています。裸体のかたちは、枝葉や屋根の輪郭と同じように軽やかな注意深さで描かれています。肩甲骨も丘のかたちも、等しくやさしい手つきで捉えられ、それぞれが繊細なエネルギーを帯びています。
本展では新作の巻物も初公開されます。フランツ・シューベルトの『夜と夢』に着想を得て、動く人物たちの連なりが描かれたこの作品では、音楽の静けさとリズムに寄り添うように、人体が現れては溶け、また立ち上がります。流れる旋律のように画面を横切るこの線は、「在ること」と「移ろい」の詩的な瞑想を思わせます。
風景画もまた、屋外でのドローイングという実践から生まれています。観察を起点としながら、アトリエで再構成されたそれらの作品は、日常の風景を光とリズムの層として描き出します。構造に縛られず、場所のテンポに導かれた筆致は、建築、植物、影、街の断片をひとつの画面に共存させ、即興的でありながら夢のような空間を立ち上げます。
これらの構成は、厳密な写実や遠近法には従いません。代わりに、要素が重ねられ、歪み、浮遊することで、記憶が細部を積み重ねるような視覚的圧縮感が生まれます。作品は視覚の日記のように、個人的な経験と文化的な風景を曖昧に交差させていきます。ある作品には、日本の水辺の都市を思わせる風景が現れ、そこでは歴史と現代、静けさと賑わいが一体となっています。大胆な筆致や透明な重なり、絵の具のにぎやかな配置は、現代の視覚の密度への応答であり、祝祭の瞬間、あるいは穏やかな郷愁を感じさせます。
風景でも人物でも、渡辺の線は制御を求めていません。それは共鳴を探しています。一つひとつの線が触れるような即時性と、時間に寄り添う静けさを持ち、見る者にただ「見る」ことではなく、「記憶すること」と「存在すること」の間の間隔を感じさせます。これらの作品は、見るという行為に立ち返り、知覚が「今ここ」にとどまるための空間をそっと差し出してくれます。