開催情報
【作家】SOPHIE GOUGH
【期間】2025-05-13(火) ~ 2025-05-18(日)
【開館時間】12:00-19:00 最終日17:00まで
【休館日等】月曜日
【料金】無料
https://www.dohjidai.com/gallery/exhibition/borderind-stillness/
会場
会場名:同時代ギャラリー ギャラリービス
webサイト:https://www.dohjidai.com/gallery/
アクセス:〒604-8082 京都府京都市中京区三条通御幸町東入弁慶石町56 1928ビル2F
電話番号:075-256-6155
概要
この展覧会は、京都市でのアーティスト・イン・レジデンス期間中に得た体験に応答するかたちで制作された作品群によって構成されています。作品は、「歩く」「観察する」「集める」「再構成する」といった緩やかなプロセスを通じて形づくられています。ドローイング、彫刻的断片、空間インスタレーションを通して繰り返し立ち現れるのは、記憶がどのように形に染み込むのかという問いです――物語としてではなく、残滓として、リズムとして、静かな回帰として。
本展には、日本の美意識「もののあはれ」――あらゆるものごとの儚さへの感受性――が通奏低音のように流れています。ここでの無常は、喪失としてではなく、「注意深くあること」のための状態として捉えられています。それは保存への執着ではなく、不安定さのなかにこそ美とアイデンティティの輪郭が浮かび上がるという、繊細な認識の実践です。
多くの作品は、小さな採集行為から生まれています。都市の縁で集めた竹の鞘、畳から摺り取った柔らかな痕跡、歩行のなかで記されたスケッチの印象。そこに残るのは動きそのものではなく、その後に漂うもの――触れるという圧、表面の摩耗、存在の余韻です。タイル作品は、建築的なグリッドや秩序を想起させながらも、仮設的な構成へと崩れていきます。Held by Celadon Drifts においては、鋳造された竹の断片が青磁の表面に化石のように埋め込まれ、光を受けては手放すその儚い性質が、素材と記憶の時間的な重なりをそっと浮かび上がらせます。
隣接する Something in Waiting では、光を帯びた竹の鞘が壁に重ねられ、呼吸と崩壊の両方を抱える肌のような表面が現れます。それは決して解決に至ることなく、静かな再構成によって記憶するための表面です。Somatic Ley Lines では、グラファイトの擦過が地形ではなく身体性を描き出し、畳の比率に基づくグリッドが、触覚と繰り返しによって現れてきます。さらに An Accumulation of Return では、破かれたスケッチブックのページが漂うように構成され、出会いや痕跡、そして回帰の層を通じて、記憶が静かに堆積していきます。
それぞれの作品において、記憶は固定されたものではなく、逃れゆくものです。同様に、アイデンティティも整合性によって定義されるのではなく、解体と再構築、そして「保持されるもの」と「溶けゆくもの」とのあいだに存在する微細な緊張によって形づくられています。
《ボーダリング・スティルネス》全体を通して、素材はまるで閾(しきい)のように振る舞います――何かが通り過ぎた痕跡を受け止めつつ、決して完全には閉じない。ここでの「静けさ」は、欠如ではなく、緊張と注意、そして継続的な変容の場です。持続するのは形そのものではなく、それが残していく感触なのです。この空間において、アイデンティティと記憶は、通気性のある仮設的な構造として展開されていきます――壊れやすく、しなやかで、しかし確かに脈動するものとして。