一般社団法人HAPSは、このたび「公立美術館における障害者等による文化芸術活動を促進させるためのコア人材のコミュニティ形成を軸とした基盤づくり事業」の一環として、東京都現代美術館 学芸員の藪前知子氏をゲストキュレーターに招聘し、HAPS HOUSE内のギャラリーを会場とした展覧会「君のための絵」を開催いたします。昨年度に続き、障害のある人が関わる文化芸術活動を拡張する基盤をつくる本事業の先駆的な取り組みとして、気鋭のキュレーターとともに開かれたアートシーンの形成をめざします。
【企画について】
「君のための絵」
多くの人にとって、何かを描きたいという気持ちの芽生えは、「好き」という感情と繋がっていたのではないでしょうか。乗り物や動物、アニメのキャラクターやアイドルたち。描くことは、そうした好きなものの世界と繋がるための大事な方法でした。私たちの多くが知りながら、いつしかどこかに置いてきてしまったこの感覚を、更新し続けてきたアーティストたちがいます。この展覧会で特に焦点を当てるのは、アイドルへの愛着を描いた作品です。阿部美幸は、好きな人との相合傘と、幸せの記号のようなチューリップの図像を、画面を埋め尽くすように、長きにわたり描いてきました。田湯加那子は、ディズニーランドでの楽しい一日を描いた最初の作品をきっかけに、力強い線で対象を捉えた膨大な量の作品を生み出してきました。本展では、彼女が自分の絵を確立していく過程で残した、好きなアイドルたちを描いた作品を展示します。
感覚や感情がメディアを通して交換されるこの時代に、自らの手でそれを表現し直そうとする彼女たちの営みは、私たちに、大きな世界に対する個の力を想像させてくれます。いわゆる「ファン・アート」とも地続きにあるこれらの作品は、「愛」という芸術に馴染み深い主題の現代的な表現でもあります。「推し」へのラブレターでもあり、溢れる自分の想いの受け皿でもあり、さらにはそうした閉じた関係を超えて、見るものに共感を促す彼女たちの作品は、人はなぜ表現するのかという大きな問いに対し、幾つもの答えを教えてくれるはずです。
藪前知子(東京都現代美術館 学芸員)
【展覧会概要】
展覧会名|「君のための絵」(キュレーションを公平に拡張する vol.2)
会期|2024年1月13日(土)〜2月12日(月・祝)12:00〜18:00 入場は17:30まで/会期中の金・土・日・祝日のみオープン
会場|HAPS HOUSE(〒601-8004 京都市南区東九条東山王町1/京都駅八条口より徒歩11分)
※駐車場、駐輪場はございません。来場には公共交通機関をご利用ください。
※会場は東山区のHAPSオフィスではありません。ご注意ください。
入場料|無料
出展者|阿部美幸、田湯加那子
ゲストキュレーター|藪前知子(東京都現代美術館 学芸員)
本展Instagram|@a_picture_for_you_haps
公立美術館における障害者等による文化芸術活動を促進させるためのコア人材のコミュニティ形成を軸とした基盤づくり事業「パイロット事業」(文化庁委託事業「令和5年度 障害者等による文化芸術活動推進事業」)
主催:文化庁、一般社団法人HAPS
制作:一般社団法人HAPS
協力:社会福祉法人みぬま福祉会 工房集、田湯憲明、田湯ひろみ
※1月13日(土) 13:00〜16:00ごろの時間は、下記の関連トークイベント開催に伴い、HAPS HOUSE内の入退場がしにくい状況になります。展覧会自体はご覧いただけますが、関連資料コーナーを一部撤去する予定です。ご来場の際はあらかじめご了承ください。また、関連トークイベントは事前申込制のため、ご予約のない方の当日参加はできません。
【関連トークイベント】
自分を作ってきたアイドルや「推し」たちの肖像を「ファン・アート」と「コンテンポラリー・アート」の境界を意識しつつ発表してきた画家の松村早希子と本展キュレーターが、それらといわゆる「アール・ブリュット」という領域との関係や、絵を通したコミュニケーションなどについて考えます。
※トークイベントの映像をYouTubeで公開しました!
出演|藪前知子
ゲスト|松村早希子(画家/アイドル愛好家)
日時|2024年1月13日(土) 14:00〜15:30(終了しました)
会場|HAPS HOUSE
定員|10名
予約|https://a-picture-for-you-talk.peatix.com
【作家プロフィール】
阿部美幸(あべ みゆき)
1981年生まれ。1999年より社会福祉法人みぬま福祉会「川口太陽の家」に所属。2002年より同法人が運営するアトリエにて絵を描き、併設のギャラリーにて作品を展示するようになる。2011年に展覧会「ガールズミーティング」(マキイマサルファインアーツ、浅草橋)の出展作家に選ばれ、以降、作家としての活動を続けている。
https://kobo-syu.com/artists/阿部美幸/
田湯加那子(たゆ かなこ)
1983年生まれ。北海道白老町在住。10歳の時から、学校の友達やテレビで見た歌手などを題材にした人物画を描くようになる。2005年の初個展以降、継続的に作品を発表する。近年参加した主な展覧会は「すごいぞ、これは!」(埼玉県立近代美術館ほか、2015〜16年)、「Art Brut et Bande Dessinée」(Collection de l’Art Brut – Lausanne、2022〜23年)。
【ゲストキュレータープロフィール】
藪前知子(やぶまえ ともこ)
東京都現代美術館学芸員。主な企画に「大竹伸朗 全景 1955-2006」(2006年)、「山口小夜子 未来を着る人」(2015年)、「おとなもこどもも考える ここはだれの場所?」(2015年)、「MOTアニュアル2019 Echo after Echo:仮の声、新しい影」(2019-20年)、「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」(2020 – 2021年)、「クリスチャン・マークレー トランスレーティング[翻訳する]」(2021-2022年)など。札幌国際芸術祭2017など外部企画のキュレーターや、美術を中心とした評論活動で寄稿多数。
【関連トークイベントゲストプロフィール】
松村早希子(まつむら さきこ)
1982年東京生まれサブカル育ち
多摩美術大学美術学部絵画学科卒
物心ついた時から、かわいい人が大好き
個展「わたしの かわいい はどこから来たのか 〜かわいい源泉掘りおこし〜」 (ストロベリー・スーパーソニック、高円寺、2022年)
https://www.instagram.com/sakiko427/
http://sakiko427.tumblr.com/
【「キュレーションを公平(フェア)に拡張する」開催にあたって】
障害者等の関わる文化芸術活動は近年大きく発展してきました。美術館やコンサートホールなどで彼ら・彼女らの作品に接する機会も珍しいものではなくなっています。とはいえ、そこには「棲み分け」があり、障害者らによるアートは良くも悪くも特別なものとされています。肯定的な反面、その背後には差別や排除があるかもしれません。
本企画は現代美術、とりわけキュレーションの諸実践を通して、この状況に積極的に働きかけるものです。障害者らが天才かどうか、その作品が優れているかどうか、という議論を一旦留保し、キュレーション実践の積み重ねによって考えを進めること。そもそも「芸術家」や「作品」という概念、その良し悪しは、安定して存在しているのではなく、キュレーションの積み重ねによって、絶えず「実務的に」変更されてきたものです。本企画では、気鋭の現代美術キュレーターによる展覧会制作を通して、小さな躓きの一つ一つを確認し、着実に「開かれた、公平なアート」へと歩みを進めることを目指します。
これまでに実施した展覧会
キュレーションを公平に拡張するvol.1「私はなぜ古谷渉を選んだのか」
2023年1月7日(土)〜1月29日(日)
ゲストキュレーター:保坂健二朗(滋賀県立美術館 館長〔ディレクター〕)
出展者:古谷渉
アーカイブ:https://haps-bunka.space/pilot/