ベーシック・インカムと表現: 山森亮インタビュー
Basic Income And Expression : Toru Yamamori Interview

10 国内でベーシック・インカムを実現するとしたら
 
—現実的にベーシック・インカムを実施することが日本で可能だと思いますか? 導入のステップとしては、ちょっとずつ進んでいくとか、自治体ごととか、あるいは65歳以上とか、どう進んでいくと思いますか。
 
国単位でというのは閉鎖経済を前提に考えています。今、人の移動もビザがないと動けないので、それを前提にしていけば制度的なフィジビリティを描くのはそんなに難しい話ではないと思います。要するに税金を増やせばいいという話になります。増やしても、ベーシック・インカムで返ってきますからね。

個人個人の負担はそう増えないはずです。収入の状況が劇的に変わるのはワーキングプアといわれている600万人とか800万人とかの人であり、それ以外の人はベーシック・インカムで返ってくる分と同じくらいの税金を引かれる感じです。生活保護を受給している人はそれと変わらないというような状況になるわけです。

動的に考えるといろいろ違ってきますね。今、生活保護を受けている人は働いたら支給が止まるとか、ベーシック・インカムだったら支給されつづけるとか。今、僕は、仕事をやめたら収入がゼロになりますが、ベーシック・インカムがあれば収入が残るということになります。国家予算にすればいきなり現在の2倍とか、3倍とかになるかもしれません。でも、税金も増えますが、その分がベーシック・インカムで戻ってきます。
 
—それは自治体ごとでやるということも可能でしょうか。
 
今の制度のなかでは難しいでしょうね。
 
—自治体で、ベーシック・インカムが実施されたら、じゃあ、その自治体に引越しをするかということになりそうですね。
 
部分的に始めるのであれば、人が住みたがらない所から始めるのがいいのではと思います。国が考えるとしたら、ある種の地方交付税的な発想で、たとえば市部ではもらえないけど、郡部ではもらえる、寒冷地ならもらえるとか、そういうような形で始めるのが現実的だろうといわれています。

現実に今、ブラジルやナミビア、インドで、国際機関が入って実験を試みています。それは基本的にはその国のなかでも比較的貧しい地域で始めています。その金を持って移住しちゃったらほとんど意味をなさないような額を給付して、その地域で野菜などを作って自給自足している分には、とりあえず仕事がなくても食べていける、という額で実験中です。いまのところ、労働意欲は衰えていないということですよ。まあ、そのことを証明したくて場所を懸命に選んでやっているわけですが。

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(ベーシックインカムの給付を始めたブラジルの NPO「ヘ・シビタス」)
(山森亮研究室HPより http://tyamamor.doshisha.ac.jp/)
 
何か部分的に始めていこうとするのであれば、ある種の知恵が必要でしょうね。社会の中でもらっている人ともらっていない人がいて、それが多くの不公平感や、多くの人口移動を引き起こさないように実施するためには、ある種の工夫が必要かもしれません。

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