Exhibition Review

2013.06.05

SHELVES

松延総司

LABORATORY

2013年4月24日(水) - 2013年5月19日(日)

レビュアー:榊原充大



どんな家、いや人が暮らすところにはどんなところにでも必ずあると言っていいほどありふれた家具、棚。この棚を芸術の分野から見直そうという試みが、アーティスト松延総司(http://matsunobe.net)による展覧会<SHELVES>です。

「棚は物ではなく状態」

今回の展覧会に寄せられた「『棚』とは機能であり、状態である」という作家のステイトメントから、棚とは何枚かの板とそれを支える板からなる、物と物とが関係している状態に名前を付けたもの、という当たり前のルールに気づきます。松延自身「これは棚の展覧会です」と言う通り、ここに並ぶのは棚にインスピレーションを受けた作品ではなく、棚と呼び得るギリギリの物体です。

これまで松延は、自らセメントをこねて大小の「石」をつくり、さまざまな場所に置きなおす<私の石>、身の回りの様々なものの「縁」をラインテープでなぞることによって、私たちの立体物の見方を揺さぶる<Nissed>などの作品で、身の回りの見慣れた物体が「そうある」見慣れない成立の仕方、またそれを「当たり前」と思っている私たちの認識の仕方にジワジワと疑問をつきつけます。

ひとつの「テーマ」をつきつめるより、ひとつの「ルール」を問い展開する

松延作品の特徴として、総じて必然的なサイズと数がありません。今回も五つの棚が展示されてはいますが、棚という、物と物とが関係するひとつの「ルール」のありうべき具体化の方法をいくつか展開した、という印象を受けます。彼自身の目的に「”視点”を制作する(http://matsunobe.net/statement.html)」とある通り、ひとつの「テーマ」をつきつめるより、私たちを取り巻く物や関係性の「ルール」を模索する、という松延の特徴がそこに表れているように思います。

彼の作品は、絵画や写真のように、そこに写し出されたものに心を動かされるようなものではなく、また特定のメッセージが強く打ち出されたようなものでもありません。ですが、展覧会会場に並ぶ機能を超えた棚そのものは、私たちを取り巻く物が「そうある」ことの裏にある「ルール」を、繊細なディテールとともに問いなおすきっかけを与えてくれるかもしれません。

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