Exhibition Review

2013.02.04

回帰

花岡伸宏

Gallery PARC

2012年6月2日(土) - 2012年6月17日(日)

レビュアー:安河内宏法




意味と不可解さの間に


口から吐き出された唾液に嫌悪感を覚える理由について、心理学者のR・D・レインは、それがある種の不可解さを与える存在であるからだと説明する。唾液は口から出た途端、自己のものでも他者のものでもない存在へと転化する。それゆえに人は、唾液に対してどのような関係を取れば良いのか分からず、過剰に反応してしまうのだという。

この説明に倣うのであれば、花岡伸宏の作品は、吐き出されようとする瞬間の唾液になぞらえることが出来るだろう。
彼はこれまで、主に木や樹脂といった素材を用いて立体作品を制作してきた。その作品の特徴は、例えば人物の木彫像と樹脂によってかたどられた白飯といった、本来何の関係のないモチーフ同士が唐突に連結される点にある。

もっとも花岡は、そうすることで個々のモチーフを不可解なものへと転化するのではない。モチーフ同士の結びつけ方は不可解ではあるが、しかしその中で個々のモチーフはそのままのかたちで残されている。言うなれば花岡は、個々のモチーフにおいては意味を保ちつつ、作品全体を見れば不可解という風に、意味と不可解さの間で揺れ動く作品を作り上げているのである。

「回帰」と名付けられた本展において最近作のひとつとして出品されていた《無形の排泄A》は、そうした花岡の作品の特徴を端的に示すものであった。唾液同様、体外へと排泄された排泄物は自己と他者の間にある曖昧な存在である。花岡は《無形の排泄A》において、そうした存在がまさに体外へと排泄されようとする瞬間を表す。そこではある物が不可解な存在へと移り変わろうとする瞬間が表されている。
唾液を呑み込むのでも、吐ききってしまうのでもなく、吐き出す瞬間を捕まえること。言い換えれば、意味と不可解さのどちらかに傾くのではなく、意味がありつつ不可解であること。花岡の作品が示すのは、そうした両義的な領域である。

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