Exhibition Review

2013.01.30

絵本のしごと

レオ・レオニ

美術館「えき」KYOTO

2012年12月6日(木) - 2012年12月27日(木)

レビュアー:横岩良太




スイミー達の計算量、作品の新しい重さ


青いインクの幻影でできた海の中を、小さな魚達が泳ぎ回っている。1匹の黒い小さな魚と、何百匹もの赤い小さな魚達は、ときに集合し、ときに離散して、それぞれが縦横無尽に、しかしある調和を保ちながら流れるように移動している。まるで本当に生きているかのようだ。自律した魚達の生み出すダイナミクスから僕は目を離すことができなかった。

JR京都伊勢丹にある、美術館「えき」KYOTOでの企画展「レオ・レオニ 絵本のしごと」へ行って来ました。レオ・レオニは「スイミー」や「フレデリック」などを描いた絵本作家で、今回展示されていたものは絵本の原画100点程と、想像上の植物を描いた平行植物シリーズの油絵や彫刻です。作品は繊細なタッチと制作に費やされた多大なエネルギーを伝えるものでした。

ただ、僕が強く心奪われたのはレオニ本人の作品ではなく、semitranceparent designによる映像作品です。それは絵本「スイミー」を元にしたもので、アニメーションというよりはコンピュータシミュレーションのようでした。画面上の魚達は周囲にいる魚達の動きによって自分の動き方を決めるようにプログラムされていたのではないかと思います。その振る舞いは生命そのものの様に躍動的でした。
パソコンで何かをダウンロードしたりインストールするときに、何故かずっとその画面を眺めていた経験はないでしょうか。僕達はその背後で一秒間に何十億回という凄まじい演算が行われているのを感じているような気がします。それは丁度、芸術作品に込められた見えない労力が僕達を圧倒するのに似ています。デジタル機器の普及がアートの世界にも多数のデジタル作品を持ち込みましたが、単純に目に見える表現方法が広がっただけではなく、作品に「膨大な計算」という、目に見えない新しい重さを持たせることが可能になったのではないかと、そんなことを思いながら会場を後にしました。

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