Exhibition Review

2014.12.12

VANISHING POINT / 消滅点

藤永覚耶、前谷康太郎、宮崎雄樹

Gallery PARC

2014年12月2日(火) - 2014年12月28日(日)

レビュアー:ムラタオウミ


ギャラリーを出ると、冬の晴天ににわか雨が降ってきた。
ポツ、ポツ、ポツと、乾いたアスファルトに雨滴のドットが広がっていく…

藤永覚耶は綿布をキャンバスに、色鮮やかな染料インクで点描画を描いている。いちど定着した色彩の「点」をアルコールで溶かし、混ぜ合わせ、滲ませることによって、イメージは揺らめく水底に置かれたように朧げにたゆたい、観る者を眩惑する。木々や花、昆虫、あるいは群れなす「お猿さん」を作品のモチーフとして、また綿布や染料を画材として選んでいるところは、藤永の「工芸作家」的な側面を想起させるが、彼自身、その作品の「単なる綿布=モノ」としての側面に言及している。曰く、(鑑賞者は)作品に近づくことで「モノ」を意識し、距離をとることで「イメージ」を見いだすかもしれないと。
もうひとりの出展者、宮崎雄樹も、画材と手法においてかなり個性的な作家だ。画面には青空の下に真っ白なゲレンデの風景が描かれているが、木々も行楽の人々もその表情ばかりか輪郭さえおぼろに滲んでいるのは、アクリル絵具で描いた画面に蜜蝋を流し、更に油彩を施すという手法のせいである。いま、この目で見ている、その視界の「縁」(そこは絶望的にぼやけている!)の情景、どれだけ目を擦っても永遠に定まらない情景が、そこには描かれている。

水底に揺らめくイメージ、厚く蜜蝋に閉ざされたイメージ… それら「消えゆく」イメージは、しかし、隔てられた向こう側の情景であるよりも、私の内側で溶けながら浸透していく粒子のような、頭の中で遠く霞んでいく記憶のような「体験」として感得される。「消滅点。それは今を生きる私たちの体感覚に則した、広く共有しうる世界観…」とキュレーター・宮下忠也が語るとおり、我々は、かつて絶対とされた「消失点」という一点には集約できない「消滅の記憶」を内に秘め、共有していることに気づかされるのである。

Pocket