Exhibition Review

2014.10.08

Your ghost is fine.

大塚朝子

京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA

2014年9月13日(土) - 2014年9月28日(日)

レビュアー:合志信之介


Your ghost is fine——この風変わりな展覧会のタイトルは作家自身の語るところによると、他人の心のなかにいる幽霊のような存在に向けた挨拶のような言葉であるらしい。fineとは「元気だ」「明るい」と同時に「繊細な」を意味する単語でもある。そんな両義的な意味を内包するある種の危うさをもつ世界を彫刻作家である大塚朝子は彫刻というマッスの定まったものを超え出ることで表現し、実際に出現させる。

写真作品「Doli’s Dreaming and Awakening」では、ガラス花器のうえに置かれてある色とりどりの宝石の数々が静物画のように写し出されている。眼がくらむほどの明るい世界をソフトフォーカスによって朧げに写し込むとで、宝石はやわらかな輪郭を帯び、さらに併置されたガラス皿のぼやけた輪郭と交わることで、本来硬質であるはずの宝石はガラスのもつ「繊細な」脆さ――手からこぼせば途端にこわれてしまいそうな――を獲得してしまう。この写真の連作は会場の左右に展示され、そしてモデルとなったこの世のものとは思えないほど 、、、、、、、、、、、、、、、美しい宝石や石も実際に会場に散りばめられており、鑑賞者は危うい世界の狭間に迷い込んでしまうのだ。

会場の中央には大きなベッドの上に装飾された二本の樹枝が横たわっている作品「SafetyDance」が置かれている。何処からか漂流してきたかのような樹枝が未だ夢の世界を漂流しているかのごとくこの明るい会場の真ん中で眠っている。いったいなにを夢見ているのだろう――そんなことが頭に浮かんだとき、現実と呼ばれるわたしたちの世界もまた確かな輪郭を失っていくような感覚に陥るだろう。現実とは未だ覚めていない夢のことであるかもしれず、だとしたらもしかすると私たちとは、この不可思議な枝々の夢の対象なのかもしれないのだから。

ここでは何もかもがあやふやだ。私たちは夢を見ると同時に夢を見られている。身体の輪郭線は夢に帰していく。あるいはこうも言えるかもしれない。私たちは他者の中に幽霊を見つけるとき、私たち自身も幽霊にとっての幽霊として存在しているはずである。それはガラスのように「繊細で」「透き通る」ように、それでいて「生き生きと」。

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