Exhibition Review

2018.03.29

松本和子個展「温室の中で」

松本和子

MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w

2018年2月3日(土) - 2018年2月24日(土)

レビュアー:飯盛希 (27)


 

松本和子はフレスコで絵画を制作しているが、その方法はフレスコ画の「保存修復」に関係している。というのも、たとえば古いフレスコ画を保存するために、それを壁から剥がしとって、別の場所に移動させるのと同じ技法で、松本は、一旦パネルに作製したフレスコを、別の支持体に転置しているのである。フレスコに寒冷紗をかぶせ、その上から膠を塗り、強い接着力で漆喰ごと図像を剥がしとって、任意の場所に写すのが「スタッコ」という技法である。一方、薄く膠を塗布することで、彩色層のみを剥がすことができるのが「ストラッポ」である。こうした技術は、保存上の必要から用いられるだけでなく、フレスコ画の制作を現場とは別の作業場において可能にするので、壁画のように大規模な作品の実現を容易にする。《透明の対話》は、まさにそのようにして壁全体に──したがって、いかにも壁画として──構成された作品である。各ピースは60cm四方の大きさで、いわゆる「ジョルナータ」(1日分の作業面積)を示しているようでもある。また、「ストラッポ」を用いると、あたかも経年劣化で絵具が剥離したかのように、わずかな図像が漆喰に残るのだが(一度「ストラッポ」したフレスコを、さらに「スタッコ」することで、まさにイメージの「風化」を主題化したような対の作品も見られる)、「清流の国ぎふ芸術祭 Art Award IN THE CUBE」(岐阜県美術館)で発表したときは、与えられたキューブ状の小屋において、内壁には色鮮やかな「ストラッポ」を、外壁には色褪せたフレスコを敷きつめることで、ひとつのイメージから二つの姿を採り出して見せた。今回の個展では、その「一部」だけが再展示されたのだが、おそらく、いくつかは販売したり譲渡したりして散逸したのだろう。所有してもらうことで作品を間接的に保存することを目論むと同時に、今度は不完全であることによって作品の欠落を印象づける。松本のフレスコ画は、単に古典技法を採りいれた作例であるだけでなく、まさに「保存修復の技法と思想」を伝えるものであると言える。

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