Exhibition Review

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2019.02.05

ALLNIGHT HAPS 2018 後期 「信仰」vol.2 温田山

温田山

HAPS

2019年1月12日(土) - 2019年2月11日(月)

レビュアー:島貫泰介 (38) 美術ライター/編集者


反転の作法、コミュニケーション
 
 
夜の京都・東山区に忽然と現れる、ガラス越しの展示空間ALLNIGHT HAPS。美術家の谷澤紗和子がキュレーションする「信仰」シリーズの第二弾として、温田山の展示が2019年1月12日に始まった。
 温田山とは、漫画家の温田庭子(ぴょんぬりら)と美術家の山下拓也によるユニット。実生活でもパートナーである2人は、今回の企画のために、展示スペースの仮説壁を彫って巨大な版木とし、それを布や紙に刷り、建物の外に掲示するという計画を立てた。80〜90年代のファンシーグッズや女児向け漫画を思わせる魔女っ子像の図版を温田が描き、公開制作などを交えながら山下がそれを壁面に彫る。山下によると、それはLINEのスタンプをイメージしたもので、東山の街と住民に向けた「コミュニケーション」の表れなのだという。
 実際、展示初日には散歩中の犬が足を止め、展示室内をガン見しているのを目撃した。人間を素通りし、まっさきに動物とのコミュニケーションが成立するあたり、2人の目論見は成功したと言えるかもしれない。なぜか? 温田山のコミュニケーションには、パブリックの属人性にあえてそっぽを向く、ある種の暴力的身振りが滲んでいるからだ。
 布に摺られた「夜の さんぽ 行こ」「KONBANWA〜」といった誰かへの問いかけがことごとく反転して鏡文字になっているのは、本来ならネガとして制作されるべき版木がポジになっているからで、情報伝達や政治思想の表明などにも使われる印刷物の役割・機能をまるっきり無視している。そのように彫った理由を、初日に行われたオープニングトークにおいて山下は「温田が描いた図版を壁に彫る自分の行為こそが、正しい方向だから」なのだと語っていた。つまり温田山あるいは山下は、このプロジェクトにおいてパブリックよりもプライベートな交感を、そしてそこに生じる触知的な体感をこそ重視しているのだ。この逆転の身振りは、山下が個人名義で発表してきた、既存のキャラクターをホワイトキューブの壁材を素材にして構成し直す《雨に散る油 feat.横浜の》(2013年)などにも見て取れる。
 本展は、公開制作やワークインプログレスの過程を経て、古民家を改装したHAPSの外面に版画を次々と付け足していく予定だという。そうやってできた設えは、おそらく山下の立体・彫刻として見ることもできるだろう。プライベートな欲望がバブリックへとはみ出し、穏当なコミュニケーションを挑発する。それは温田山が2017年の初個展で行った「未来(2025年)の展示を告知する展示」での、時間と約束の不確定性にも通じている。

 

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