Exhibition Review

14_2018

2019.01.15

池内美絵展 生きるためのなにか

池内美絵

嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学 附属博物館

2018年11月9日(金) - 2018年12月3日(月)

レビュアー:植松由希子 (36) 会社員


 

最近、美術作品内外限らず、女性といえば、権利を主張する社会的ジェンダーの観点を熱く盛り込んでいる。それはそれで、とても意義のある。だが、池内氏の作品は、女性の捉え方の観点が今の主流とは異なっている。そこにあるのは、作家自身が関心のある、もっと冷静な、生物学的な女性(や男性)という観察的な観点だ。そしてそれが、作品へと変化する際に、様々な意味合いへと変化する。

池内氏の作品は造形作品と印刷物の2つの形式に分けられる。

まずは造形物。池内氏の造形作品の多くは、作家自ら作った美しい化粧箱に納められている。作品を美しい造形を持った、《ブローチ》や《リース》といった物体として鑑賞する時は、箱は丁寧に作られた宝箱のようでもある。しかし、全ての作品は、添えられた説明文を読むことで、その美しい造形物の意味が変化する。その素材が「コンドーム(未使用)」や「生理用ナプキン」といったものであると知った時、ある種の観察結果を収めた標本箱の様にも見えてくる。さらに、《リース》の材料となる「精液を拭きとったティッシュ」や、《ギフト》の小さな靴下が、「使用済みコンドーム」で出来ていることを意識した途端に、作品は生の記憶を残した死体である様にも思えてくるのだ。そしてそう思った時には、箱は途端に静かな棺となる。

印刷物も造形物と同様、池内氏自身によって、きちんとデザイン、パッケージ化されている。内容は、作家の飼育していたヤスデにまつわる発見や観察の記録をはじめ、日々の個人的社会活動の一部であるKOBE喫茶探偵団の活動報告や、月経カップや麻雀など多岐にわたる作家の関心をこまめにまとめた興味深いものとなる。ヤスデの糞の中より、餌で食べたトマトの種が芽を生やした観察記録は代表作ではないか。他にもデザインで関わっていたS&Mスナイパーなども並列されている。会場には虫眼鏡が置いてあり、並べられた作品の細かな文字をどこまでも読むことが出来る。

そういった池内氏の作品について、今回の展覧会で特筆すべきは、池内氏の作品の製作、発表スタイルでは、あれだけの作品が同時に並ぶ状況で観る事はなかなかないという事だ。造形作品では個々の作品を、時間を掛けて丁寧に制作し、納得した形で個別に発表していく事が多く、また、印刷物の作品は作家自らが、個人的に個別に配布していくものが多いからだ。
中でも造形作品では、個々の意味レベルにおいて様々に異なる作品となる。作者や長年飼っていたヤスデの排泄物によって作られた人形《アリス》や《ウサギ》、または作家自身の体内を通過した頭が紛失された小さな人形であるもう1つの《アリス》などは、ユーモアなのか、とも思いながら、そうかと思うと先に挙げたような作品では、女性としての記憶や感情的な部分が造形として生々しく立ち現れているものもある。一種のホラーに近いものもある。それらの作品が多数、隣同士に並べられて、会場が構成されていることで、作品同士にも相互作用が働き、さらに多様な見方が可能となり、個々の作品の視野が広がる点に、今回の展覧会ならではのおもしろさがあった。

最後に、展覧会のフライヤーに記載されている「回顧展」という言葉について。日本では巨匠クラスの作家が死ぬ間際に、もしくは死後に総括的に行われるのが「回顧展」という言葉のイメージだが、海外で「回顧展」といえば、まだ活躍中の作家が、折をみて定期的に開催する記念展覧会も珍しくはないという。美術作品のアーカイブ問題が取り沙汰される事が多い昨今、現役で活躍中の作家の展覧会が、こういった形式で開かれる事の意義について考える上でも、重要な展覧会だったのではないかと思う。

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