Exhibition Review

2018.01.11

ALLNIGHT HAPS 2017 前期「日々のたくわえ」#4 札本彩子「last night meal」

札本彩子

HAPS

2017年11月10日(金) - 2017年12月4日(月)

レビュアー:大前粟生 (24) 小説家


 道を歩いていたら剥き出しの脳みそや心臓があったので立ち止まった。吊り下げられている。肺もある。ドラマ「ハンニバル」に出てくる美しく解体された死体みたいだ。
 よく見ると臓器はぜんぶたべもので、脳は牛丼の具で、茶色い肉と玉ねぎのなかでショウガの赤色が映えている。心臓はなんかユッケ的なもの。肺は片方がピザポテト的なものでできていて、もう片方がベーコンレタスサンド的なもの。他にもある臓器らしきものは、ポップコーンやポテトサラダや焼きそばなど、道の駅的な、ファストフード的なものでできている。私はさっきセブンイレブンのナポリタンとチーズカレーまんをたべたばかりなのでおいしそうとかは思わない。ただきれいだなあと思う。
 肺の上にはパックから飛び出した肉がある。1129円。表示価格より半額のシールが貼られていて、商品名は「札本彩子(ミンチ)」。やっぱり死体だ。
 壁には画一的な弁当が40個くらい並んでいる。臓器はみんなきらきらかがやいていて今にも動き出しそうなのに、壁の弁当が私にはすごく不気味だ。どうしてだろう。なるべく弁当が視界に入らないように、ほとんどウインクするようにして臓器を見つめつづけていると、うしろから5歳くらいの女の子の声がした。私はガラスにぴったり顔をつけた。これで、臓器を見て微笑んでいる私の顔は展示ガラスに反射しない。女の子に見られない。私はそのことに安心した。そのことに少しつらくなった。私は呼吸するのをやめた。ファストフードの臓器をただきれいだとしか思えない私は、明るい声の子どもと比べると自分がちょっとつらくなって呼吸するのをやめた。ごめんね、と心臓に思った。ごめんね、と脳や肺や肉に思いながら、きれいなので写真をたくさん撮った。

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