Exhibition Review

2018.12.20

ALLNIGHT HAPS 2018 後期 「信仰」vol.1碓井ゆい

碓井ゆい

HAPS

2018年11月23日(金) - 2019年1月6日(日)

レビュアー:はらだ有彩 テキストレーター


 

『信仰』とは神・仏などの神聖なもの、また何らかの対象を絶対のものと信じて、疑わないことである。

碓井さんは「信仰」を破壊する。空気とともに私たちの体内に吸収され、今まで疑われてこなかったものたちを疑うことで無効化する。無邪気に信じる心を揺らがせる。

家事には対価を払わなくても良い。…本当に「そう」か?
従順な中にも凛とした一面を見せる日本女性は「イイ女」である。…本当に「そう」か?
自分の分かる範囲の自分が、真の自分である。…本当に「そう」か?
女性は子宮で考える。…本当に「そう」か?
昔から受け継がれてきたレギュレーションに破綻はない。…本当に「そう」か?

――いや、そんなわけないだろ。

この剛健な反乱はいつも静かに行われる。
オーガンジー製のやわらかな花瓶や、半透明の生地の上に踊るかわいい刺繍は見えない労働を具現化する(『shadow work』『shadow of a coin』)。古びた美しい小瓶たちは「日本人らしい」名前によって奪われた無数の人生を背負う(『empty namesー空(から)の名前』)。頼りないフォルムの手鏡には架空の文字と見分けがつかないほど遠い国の言葉が浮かび上がる(『speculum』)。素朴なカッティングの下着たちは子宮をキャラクター化・神格化・矮小化する視線を鈍器で殴ろうと試みる(『something red』)。そして土地に根ざした織物でパッチワークされた、土地に根ざした食べ物のアップリケが、「お前の境界はどこだ?」と温かく問い詰める(『gastronomy map』)。

静かだから、やわらかいから、穏やかだから、温かいから、もしかすると気づかないかもしれない。しかしこれらの静けさ、やわらかさ、穏やかさ、温かさは、そこに怒りがないことを証明する材料になり得ない。
「そう」らしく見えるものだけが「そう」であるというどうしようもない現状を、碓井さんはほとんど宇宙に近い視座で俯瞰する。その高い視座で静かに燃える怒りは、やわらかい布にくるまれ、穏やかな隕石となって地球に降り注ぐ。日本列島が見える。関西地方が、京都の盆地が見える。碁盤の目が、鴨川が見えてくる。鴨川の河川敷に一人の女性が立っている。隕石は女性の目の前に着陸し、驚く彼女に、「個」としての彼女に、温かく微笑みかけるのだ。

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