Exhibition Review

デラシネ_DE92-620

2017.01.16

Sujin Memory Bank Project #01「デラシネ―根無しの記憶たち」

柳原銀行記念資料館

2016年11月12日(土) - 2017年1月22日(日)

レビュアー:奥田浩貴 (29)


会場となった部屋には、キャプションのない匿名のモノクロ写真群、空白のアルバムが置かれた展示台、ボイドの展示空間が配され、窓側の足元からは崇仁地区に所縁を持つ2名へのインタビュー音声が流れている。写真は肖像、家族、集合という社会単位、校庭や旅行先という場、出征前という時間による分類がなされている。同館は銀行建築を移築復元した建物であり、写真群は同館への寄贈により当初の持ち主の手を離れ、各々根が一度切断されて役割が変化した「デラシネ」である。

本展はホワイトキューブでの展示と異なり、同館の根差している土地の歴史とも、それに由来した人権に関する常設展とも、深く連なっている。足元の音声からは、当時の一般の人々は特別な記念時にしかカメラ(=暗い部屋)に接する機会がなく、展示された写真群は富裕な人々の記憶が多いことも明かされる。皮職人が多かった背景をインタビューアーが尋ねる他方で、過去には高瀬舟も通過した同地区に対する一面の心的イメージを「裏切る」匿名的なスペクトラムを展示しているのである。スピーカー横には加湿器が設置され水の”vaporize”の現象も置かれており、出入口外側には近隣の銭座場跡で発掘された「るつぼ」が展示されている。

アーカイブという概念は「始まり」と「第一の権威」という二つの意味をも記憶として有している。選択、保存され、キャプチャーされた史料は住まわれざる記憶を構成する要素ともなり得る。更にその史料群によって、負のフィルターを生んでしまう可能性も孕んでいる。現像、選択され、既に仕上がっている記憶を写し出す鏡=家族アルバムに綴じられていた写真たちは場を変え、本展で住まわれた記憶として展開・現像された。それらは「史料的価値を見出し難い」ながらも、生きられた時間を過去の人々の存在感と共に表象している様である。新たな無数の根を生やすために、誠実な姿勢で『藪の中』の土壌に向き合っている展覧会である。

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