Exhibition Review

2015.09.25

風がでてきた・・・ 没後10年 貝原 浩「風しもの村」と鉛筆画展

貝原 浩

ギャラリーヒルゲート

2015年7月21日(火) - 2015年7月26日(日)

レビュアー:ふじきゆみこ


貝原浩というひとりの絵描きをご存知だろうか。10年前にこの世を去るまで、彼にしか描けない独特な世界を、繊細な鉛筆画や妖艶な筆絵、ペン画など様々な作風で表現し続けてきた作家である。

7月下旬。京都・寺町通りにあるギャラリーヒルゲートで開催されていた遺作展に足を運んだ。きっかけは、生前から親交のあった絵描き仲間で絵本作家・イラストレーターの小林敏也氏から届いた一枚の案内絵葉書だった。

展覧会紹介の最後にあった一文、
ー2015年に貝原浩が吹かせる「風」を、感じてもらいたいー
このフレーズに遠くから呼ばれた気がしたのと、絵葉書に一部が載っていた “風しもの村” という絵巻を近くでじっくりと見たくなったのだ。

貝原が訪れたのは、チェルノブイリ原発事故から6年後の “風しもの村” チェチェルスク。事故後、その村で生きると決めて戻ってきた村人ひとりひとりに焦点をあて、幾度も訪ね歩きスケッチを重ねた。原発周辺の暗く沈んだ風景も描かれていたが、農作業の様子や結婚式、子どもたちが動き回る姿など、何気ない日常のなかに彩りのある生活感がにじみ出ている。絵に添えられた手書きの文章を読むとさらにイメージが広がる。

村人たちの表情をしばらく眺めていると、不思議と体温があがるような錯覚を起こした。連作の14枚それぞれが幅180cm程あり、その大きな和紙のようなざらついて黄みがかった紙も、それを助長しているかのように思えた。

二度と繰り返されてはならない原発事故が日本で起こってしまった現実と相まって、想いが重なり複雑な心境にもなったが、村人たちの存在が力強く生命力に溢れていて、希望という言葉が浮かんできた。

かつてノンフィクション作家の柳田邦男氏がこの絵巻を見て「土に生きる人間への賛歌」と称したという。
貝原浩が見て触れて感じた心象が、筆先から紙に染み込んで、見ている私たちに訴えかけてくる。
本人がこの世から姿を消しても、魂が生き続ける作品を残した人なのかもしれない

貝原浩が吹かせる「風」を身をもって感じた夏だった。

 

 

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