Exhibition Review

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2016.06.21

「絞り」とは?

京都絞り工芸館

2016年1月5日(火) - 2016年5月8日(日)

レビュアー:奥山佳子


 
農閑期に、近所の農家の主婦たちが集まって、絞りの内職をしていたと、母が言う。
主婦たちは、指の爪先で絞り目を1粒つまんでは糸を巻き付けて絞るという作業を、延々続けていたそうだ。絞り目を1つしばる度に、糸の小気味良い音が「パチッ、パチッ」と響いていたのが忘れられぬと、母は懐かしがる。母が子供だった頃、戦後まもない京都市近郊の農村での話である。
 
今回、母と2人でこの館を訪れて、館の人に尋ねたところ、それは匹田(ひった)絞りという絞りの種類だという。
着物1枚全てに、匹田絞りを施すと、15~20万粒必要になるとのこと。まさに「気が遠くなる」作業である。
 
「絞り」とは絞り染めのことで、様々な種類、長い歴史がある。この館では、それらをビデオや展示品等で紹介している。
また、スカーフや袱紗を実際に染める、絞り体験も出来る。
 
今回の展覧会は、東海道五十三次を、布地に絞り染めで浮世絵のように製作したものが、額に入れられて展示されていた。
全55枚。製作日数は、40人の絞り職人で1年半費やしたという。
夕暮れなどの美しい色合いや、斜めに降る雨の臨場感など、素人目にも、高い技術で、手間と時間を費やして作られたことが見てとれる。
 
なお、この館では、今回の東海道五十三次展だけでなく、これまでも、これからも、絞りで作られた様々な工芸品の特別展を行っている。
 
匹田絞りを実際に行っている職人の人数が激減し、高齢化も進んでいると、館の人から説明を受けた。
 
私は、この館を訪れるまで、「絞り」のことをよく知らなかった。
しかし今は、絞り染めされた1枚の布に、どれだけの手間と時間と、職人たちの気持ちが入っているのか。さらに、その布に至るまでの長い歴史や、技術の変遷、進化。そこまでに携わってきた多くの人、人……。などに思いが及ぶようになった。
 
この技術を絶やしてしまうのは、惜しい。
惜しいだけじゃなく、悲しい、と感じる。
 
「絞り」を後世に残すためには、まず1人でも多くの人に、絞りとは何だ?ということを知ってもらうのが、第1歩である。
絞りに興味がある方はもちろん、ついこのあいだまでの私のように「絞りって何?」という人も、この館、京都絞り工芸館を訪ねてみられることをお勧めする。
 

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