京都・高瀬川を起点に、アーティストの前田耕平が「共に生きる」あり方を模索した1年間について共有しあう場「オープンラボ『かめのま』前田耕平」を開催します。
本事業は「共生」について、川を糸口に、生命が作用し合う連関の中で考え続けようとするものです。土地を掘り開いて人間が形成し、流れる高瀬川という水脈を起点に、多様な命が生きる場所と人の営為について、ともに考える機会の創出を目指します。
概要
オープンラボ『かめのま』 前田耕平
会期:2022年3月5日(土)〜3月21日(月・祝) ※会期中の木・金・土・日曜日、祝日オープン
開館時間:13:30~19:00
会場:HAPS HOUSE(〒601-8004 京都市南区東九条東山王町1/京都駅八条口より徒歩10分)℡075-748-8575
入場料:無料
主催・企画・制作:一般社団法人HAPS
協力:灯商店/梅小路公園 いのちの森/がんこ高瀬川二条苑/菊浜高瀬川保勝会/喫茶アミー/京都市立朱雀第四小学校/崇仁高瀬川保勝会/崇仁発信実行委員会/崇仁まちづくり推進委員会/高瀬川・四季AIR/銅駝高瀬川保勝会/永松高瀬川保勝会/NPO法人ビオトープネットワーク京都/松村組・要建設JV/柳原銀行記念資料館/立誠高瀬川保勝会
アートコーディネーター:石井絢子(HAPS)
アシスタントコーディネーター:小泉朝未(HAPS)
映像記録:中谷利明
写真記録:前田耕平/石井絢子(HAPS)/小泉朝未(HAPS)/中谷利明/前瑞紀
フライヤーアートディレクション:見増勇介(ym design)
フライヤーデザイン:永戸栄大(ym design)
フライヤー構成・テキスト執筆:石井絢子(HAPS)/前田耕平
※スケジュール、プログラムは新型コロナウィルス感染症の拡大状況などにより予告なく変更する場合があります。お出かけの前に最新の情報をご確認くださいますようお願いいたします。
HAPSは2017年度よりアートと共生社会をテーマにした事業に取り組み、2019年度より「京都市 文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業 モデル事業」として、京都駅周辺の崇仁・東九条地域を中心にアートプロジェクトを行ってきました。「多様な人と人がともに生きていく」「世界の中で、人や、人だけでない様々なものが共に生きていく」在り方を、表現を通してアーティストとともに模索し、5年目を迎えます。今年度はアーティストの前田耕平を招聘し、京都を流れる高瀬川を起点として実施しました。
土の中でちぢこまっていた生き物たちが春の風を感じて動き始めるー啓蟄(けいちつ)※の頃、2021年度の1年間に高瀬川を起点として生じたこと、思考、予感などを共有しあう場「かめのま」をひらきます。アーティストの前田耕平はこの1年間、東九条地域の町家を改装した複合スペースHAPS HOUSEに定期的に滞在し、一部屋を「かめのま」と名付け拠点としてきました。これは空間の名称であり、得た情報や思考を「甕(かめ)」のように貯蔵し、発酵させ、軽やかに運び歩いて見せるイメージから成る概念でもあります。
HAPS HOUSEでは高瀬川を見つめる多領域な視座を得た1年間の取り組みを示すものとして、前田が観察してきたものや、世界の捉え方を共有する装置である甕(かめ)、点描画、映像などを公開します。
それらをきっかけとした会期中のさらなる出会いを通じて、時に壮大で時に微小な、川をめぐる複数の視点が新たに立ち現れていくことでしょう。前田は多くの時間を会場や川沿いで過ごす予定です。日々の様子は「かめのま」に蓄積され、会期中に場は変化していきます。
※啓蟄|一年を二十四等分し、季節を表す名前をつけた二十四節気(旧暦の季節区分)の一つ。2022年は新暦の3月5日から啓蟄が始まり、21日から春分となる。
オープンラボ『かめのま』プログラム
[dropcap color=green][/dropcap] かめのくち高瀬川からあらゆる世界と交信してみる。かめのまから配信トークや高瀬川を歩くツアーが繰り広げられる。
配信トーク 申込不要・無料。
3月5日(土) 14:00〜15:00 ※終了しました
ゲスト:前瑞紀(京都市立芸術大学美術研究科絵画専攻構想設計)
※「かめのま」会期中はHAPS HOUSEにて前の作品《こんにちは高瀬川》を展示予定です。
トークアーカイブ視聴URL(3/21までの期間限定公開):https://youtu.be/am537r3Jssg
3月11日(金)16:30〜18:30 ※終了しました
ゲスト:hyslom/ヒスロム (アーティストグループ)
トークアーカイブ視聴URL(3/21までの期間限定公開):https://youtu.be/7_mursDANzM
3月12日(土)13:00〜15:00 ※終了しました
ゲスト:柳沢究(建築計画学・京都大学大学院 准教授)
トークアーカイブ視聴URL(3/21までの期間限定公開):https://youtu.be/khPTPZhcuko
3月13日(日)16:00〜17:00 ※終了しました
ゲスト:松波龍源(実験寺院 寳幢寺 僧院長)ほか
トークアーカイブ視聴URL(3/21までの期間限定公開):https://youtu.be/DYhx6xPR7O0
3月19日(土)18:30〜20:30 ※終了しました
ゲスト:石倉敏明(神話学者・文化人類学者)
トークアーカイブ視聴URL(3/21までの期間限定公開):https://youtu.be/9Qj5r23sBvU
高瀬川ツアー+トーク 事前申込制・無料。各回とも定員5名。
3月6日(日)13:00〜16:00 ※終了しました
ゲスト:エレナ・トゥタッチコワ(アーティスト)
申込URL:https://kamenomatour1.peatix.com/
3月10日(木)13:00〜15:00 ※終了しました
ゲスト:楊平(地域社会学者・環境社会学者・滋賀県立琵琶湖博物館学芸員)
申込URL:https://kamenomatour2.peatix.com/
3月17日(木)13:00〜15:00 ※定員に達したため申込みを締め切りました
ゲスト:田端敬三(近畿大学非常勤講師・京都ビオトープ研究会代表)
申込URL:https://kamenomatour3.peatix.com/
3月18日(金)13:00〜15:00 ※定員に達したため申込みを締め切りました
ゲスト:竹門康弘(河川生態学者・京の川の恵みを活かす会代表・京都大学防災研究所水資源環境研究センター 社会・生態環境研究領域 准教授)
申込URL:https://kamenomatour4.peatix.com/
3月20日(日)13:00〜16:00 ※定員に達したため申込みを締め切りました
ゲスト:村瀬信/Max(京都大学理学部岩石学専攻卒業)
申込URL:https://kamenomatour5.peatix.com/
[dropcap color=green][/dropcap] かめのみみ~高瀬川観望会~
夜の川べりにて打楽器の演奏会と星空観望会を開催し、高瀬川を改めて眺めます。要申込。
日時:3月21日(月・祝)18:30〜19:40(予定)
集合場所・時間:下京いきいき市民活動センター前(京都府京都市下京区上之町38番地)の高瀬川ほとりに18:30にお集まりください。
実施場所:崇仁地域の高瀬川周辺
ゲスト:谷口かんな(打楽器奏者)/小田純之介、篠原えり、松原瑞加、山本峻(京都産業大学神山天文台サポートチーム)
料金:無料
※聴こえてくる音に耳をすませて、お静かに集合をお願いします。
※雨天中止。中止の際は当日12:00までに判断の上、申込者へご連絡します。
申込URL:https://kamenomimi.peatix.com
[dropcap color=green][/dropcap] かめのめ〜パフォーマンス〜
高瀬川沿いの各所にて即興的に甕を持ち運ぶパフォーマンス。水や光や情報をすくったり出したり、会いたい生き物たちと交流しにいきます。
日時:会期中随時
会場:高瀬川周辺
[dropcap color=green][/dropcap] かめのま生配信
オープンラボ期間中、かめのま内部の様子を随時生配信します。前田がいれば交信することも可能かも!
※配信URLは開幕と同時に公開いたします。
オープンラボ『かめのま』によせて
「どじょうつかまえに行こら。」と後くんにさそわれました。ぼくは、どじょうをつかまえたことがなかったので、
「うん行く行く。」
と言って、しぎょう式が終わったあと行くやくそくをしました。
後くんのおばちゃんに、秋づにある後くんのおばあちゃんの家まで車で送ってもらいました。さっそくあみとバケツを持って後くんと出かけました。ぼくは、わくわくしてきました。
「どじょうはどこにいるん。」
と後くんに聞きました。後くんが、
「このどぶにおんね。」
と言いました。そのどぶは、水がきれいですきとおっていて、もがはえてすながいっぱいあるところでした。ぼくは、あみを持ってさがしました。
すると、黒いぶっ体がどぶの中でけむりをあげてもぐっていきました。
2001年 田辺第二小学校 3年 前田耕平 (9) 児童作文集「やまなみ」より
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本企画を考えるにあたり、魚行水濁(うおゆけばみずにごり)という禅の言葉を思い浮かべた。魚が動くと、水底の泥が舞い上がるという至極当然の話だ。この禅の問いからあたりまえの事柄について考えてみる。
そもそも魚の住む「川」が流れているのは、あたりまえなのだろうか。「川」は地形の勾配によって、山からの地下水や雨水が道となりできている。流れの緩急によって瀬や淵ができ、ぐねぐねと曲がりながら、人里や街を抜け、やがて海に繋がる。
川の水は溢れ出したり、引っ張られたりして人の住処に出入りする。人は堤防やダムを作って水の量や流れを変えたり、またその水を利用して飲んだりもする。それもまたあたりまえかもしれない。
魚行水濁(うおゆけばみずにごり)
魚が動いたことは、泥の舞いとして痕跡になる。そのあたりまえの出来事の前と後に広がる世界を想像していこうと思う。どうして魚は動いたのだろうか。泥が舞い上がり、水中は、川は、人は、何か変化するのだろうか。何かが生まれて、何かが死んでしまっただろうか。川が流れているあたりまえを観察するところから始めてみる。
2022年 前田耕平 (30)
この1年の流れの断片
2021年4月より取組みを始めた前田耕平は、公的な本事業のあり方や自らと土地との距離を模索し、高瀬川に関心を寄せます。―京都と大阪をつなぐ運河として江戸時代初期に人間の手で開削された高瀬川は、幾度かの流路変更を経て、水運が廃止された現在も「川」として京都の街中を流れ続けています。
前田は自身がその生い立ちの中で水辺と関わってきた経験や、水中の生き物への興味をきっかけとして、高瀬川全域で生き物を中心に観察を繰り返し、様々な気づきを得ます。あわせて、物理的には境界線がない「川」の中を上流から下流まで歩こうと試み、その過程で感じた引っかかりなどをもとに観察や対話、思考を重ね、川を捉えていきました。
―現在、京都駅付近に位置する高瀬川の一部は、京都市立芸術大学移転工事の柵の中にあり、新キャンパスが完成する2023年度以降、川は大学構内やその周辺を流れることになります。この場所には明治時代後期、地域住民の手により元崇仁小学校(当時は柳原小学校)が建設され、大正期の流路変更を経て、川はその校庭内を走ることになりました。そして約20年前、小学校内の川に重なる形で大勢の人の手により造られたビオトープの中では蛍が育ち始め、子どもたちの教育の場としても機能してきたそうです。
…蛍はどこから来たのでしょうか?
高瀬川は環境保全や美化を主な目的とした「高瀬川保勝会」が流れる学区ごとに立ち上げられ、定期的な清掃活動や祭りの開催などを中心に、川との自治的な関わりがなされてきました。―
そして特に、人工的な構造物である高瀬川が、時を経て、様々な循環を内包する場所となってきたさまに着目します。ここから高瀬川と、人為的な生物生息空間としてのビオトープ<Bios(生)+topos(場)>に対する解釈が重なることで、自然と関わる際の人間の姿勢や「多様な命が生きる場所」について考え始めました。
また、制度や周辺風景の変化などにより、川と人から広がる生態系もまた変化してきました。日本国内で河川は、法的には官に管理されていますが、川と人の関わり方は、実際には様々なように見受けられます。川の中で前田が感じた境界線は、公的に管理されてきた自然物と人の関係性や、その変遷に改めて着目するきっかけとなりました。
自らの観察視点を、水陸を行き来する“かめのめ”と名付けた前田は、川や水辺をめぐる思考や対話の場を開き、時に橋の下をくぐり川中を歩き、時に地域の小学校の授業や保勝会の清掃活動に参加するなどしてきました。高瀬川にとどまらず各所のビオトープや博物館を見学するなど、関わるネットワークが少しずつ形成されつつあります。それらを経て、2021年12月末、前田は高瀬川を観測するモニタリンググループの結成と、“高瀬川生物観察図鑑(仮)”を数年かけて制作し、生き物の生態やその来歴、人と自然の関係性、川の歴史や未来などを考える動きを生み出す構想を得ます。2022年3月は今年度の取組みについて共有し、来訪者と視点や思考を交換しあう場をひらきます。
本企画は共生について、川を糸口に、生命が作用し合う連関の中で考え続けようとするものです。土地を掘り開いて人間が形成し、流れる高瀬川という水脈を起点に、多様な命が生きる場所と人の営為について、ともに考える機会になると幸いです。
石井絢子(HAPS/本事業アートコーディネーター)
アーティストプロフィール
前田耕平(まえだ こうへい)photo by Mizuki Mae
1991年和歌山県生まれ。2009年カヌースプリントジュニア世界選手権ロシア大会出場。2017年京都市立芸術大学大学院美術研究科構想設計専攻修了。人や自然、物事との関係や距離に興味を向け、自身の体験を手がかりに、映像やパフォーマンスなど様々なアプローチによる探求の旅を続けている。
近年のプロジェクトに、南方熊楠の哲学思想を巡る「まんだらぼ」や、愛の形を探る「Love Noise」などがある。近年では「紀南アートウィーク2021」(高山寺/南方熊楠顕彰館、和歌山、2021)、「群馬青年ビエンナーレ2021」(群馬県立近代美術館、群馬、2021)、「六甲ミーツ・アート 芸術散歩 2020」(新神戸駅、兵庫、2020)、「京都芸術センターレジデンスプログラム ART SPACE」(オーストラリア シドニー、2019)、「Artist-in-Residency Compeung」(タイ チェンマイ、2018)など国内外の芸術祭やレジデンス等に参加。
個展に「パンガシアノドン ギガス」(京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA、京都、2019)、「イトム」(Gallery PARC、京都、2019)、「前田耕平アワー 夜のまんだらぼ」(KYOTO ART HOSTEL kumagusuku、京都、2016)、グループ展に「ARTISTS’ FAIR KYOTO 2019」(京都新聞ビル 印刷工場跡、京都、2019)、「Shift-Shoft」(神戸アートビレッジセンター/Midnight Museum、神戸・京都、2018)、「MARA マラ」(VOU、京都、2017)、「fabric, light and dirty」(ARTZONE、京都、2016)などがある。
文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業
京都市では、文化芸術の力で社会的課題の緩和・解決に取り組む多くの活動事例を踏まえ、文化芸術と社会課題をつなぎ、コーディネートするための人材育成や、文化芸術の取組に着手しようとする際の相談窓口(Social Work / Art Conference)の設置など、文化芸術による共生社会を実現するための取組として、「文化芸術による共生社会実現に向けた基盤づくり事業」を実施しています。「かめのま」は、文化芸術を通して、多様な背景を持つ人がともに生きる社会のあり方を探るモデル事業の一環で企画・実施します。モデル事業の過去のプロジェクトについては、以下をご参照ください。
「はじめまして こんにちは、今私は誰ですか?」
http://haps-kyoto.com/kurata/
展覧会 山本麻紀子「いつかの話 あの人の風」
http://haps-kyoto.com/stories_breathoflife2019/
「タイルとホコラとツーリズム」Season8 七条河原じゃり風流
http://haps-kyoto.com/tht8_jarifuryu/