ベーシック・インカムと表現: 山森亮インタビュー
Basic Income And Expression : Toru Yamamori Interview

9 生活保護を受けるのは恥ずかしい?
 
—今の話を伺うと、正当な権利を行使するだけなのに、生活保護を受ける場合に負い目と恥ずかしさみたいなものが日本人にはあるのかなと思いました。
 
僕の感覚では、その恥ずかしさに洋の東西そんなに差はないと思っています。ハローワークや福祉事務所に行くときにそういう気持ちを植えつけようとするのは、どこの国でもそうです。それから個人の側で恥ずかしいという思いのある人が多いというのも、その通りです。自殺する人が多いというのも、どこの国でも同じです。

日本の社会の中でも、たまたま炭鉱が閉山になってしまった、失業者がたくさん出てしまった町だと、生活の糧として生活保護をもらっている人が多いです。そうなると、恥ずかしさを持ち合わせていても、申請に行く人が多いので、自分も行く、ということがあるわけです。むしろ単にもらっている人が少ないから、恥ずかしさが障害になってしまうということですね。

イギリスなどでは、生活保護のようなものを、所得が一定以下であればほぼ自動的にもらえるし、面接も受けなくてよかったりします。そうすると、ある地域で工場が撤退した場合、日本だとコミュニティ自体が崩壊してしまいますが、向こうだとコミュニティは存続して、みんな失業者、みんなずっともらい続ける、というようなコミュニティがたくさんあるわけです。

人間として持っているある種の恥ずかしさが、国や地域によって違うということではなくて、みんながもらっていると、恥ずかしさに打ち勝つ何かがあるのではないかと、僕は考えています。
 
—そうすると、日本人だけが特別だというような、日本人論もどきな考え方に陥らずに、制度をじっと見ていけば治すべきものはたくさんあるというわけですね。
 
そうですね。自殺に関連することで言いますと、僕が知っている限りで言えばヨーロッパと日本では大きく違う点があります。

一つは、自営業をやっている場合の連帯保証人の仕組みです。

自営業や零細企業では、事業資金を直接金融ではなく間接金融で調達している場合が日本は多いです。そして、そのほとんどで、連帯保証人をつけています。連帯保証人のような制度が海外に無い訳ではありません。ただ、日本では、システムとして公的な保証機関などが少なく、多くの場合個人が連帯保証人になっています。

また保証人になるとき、主たる債務者と全く同等の義務を負わされる「連帯保証人」という形がほとんどです。しかもそのことの意味を良く理解できないまま保証人になっていることがとても多いのです。

多くの人が、親族やコミュニティや仕事上の付き合いのなかで、場合によっては膨大な債務を抱えることになる、一種の「奴隷」契約を結ばざるをえなくなっているのです。

もう一つは、日本の場合、住宅ローンの担保が資産としての建物ではなく、その人自身の生涯にわたる稼得能力であるというところです。

特に住宅ローンに関しては、向こうは家を売ってしまえばローンがチャラになります。日本の場合は売ってしまってもローンは残りますよね。あれは本当に非人間的な仕組みだと思います。

近代の炭鉱などで実際にあった話しですが、親方が集めてきた人夫をスナックに連れていって飲ませた後で、これだけ借金があるからと、十一の利息で働かせ続けるという、そういうタコ部屋の仕組みが日本という社会を制度化しています。

日本は公営住宅がヨーロッパに比べると整備されていません。長年「持ち家優遇」政策をしてきました。そのため多くの人がローンを組んで「マイホーム」を買います。そうなると、仕事をなかなかやめられないですよね。家を買う人がローンを組むのはどの国も同じですが、日本の場合、35年ローンなどを組んで、しかも家を売っても返せないわけです。そんな風に国民に借金を恒常的に背負わせる制度を実施している国は、そんなに多くないと思います。
 
—確か、日本の場合は、住宅ローンを組むときに、生命保険への加入も義務付けられると聞いています。
 
そういうことですよね。要するに死ねばチャラということです。日本は、生命保険の加入者数や保険料、死亡時にもらえる額なども、先進国の中では、ずば抜けています。

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