ベーシック・インカムと表現: 山森亮インタビュー
Basic Income And Expression : Toru Yamamori Interview

7 HAPS について
 
—HAPS は京都市の「京都文化芸術都市創生条例」に基づき策定された「京都文化芸術都市創生計画」(2007年3月)において、「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」事業を実施する組織として2011年9月に設立されました。HAPSについてはどう思いますか。
 
居住支援という取り組みが面白いなと思いました。
成果に対して一定額の支援をするということでないということですね。
たとえば、国立の芸術大学は入学の際に学生を選抜しています。それはアウトプットで選抜しているわけではなくて、可能性に序列をつけて、そこに国費の補助を放り込んでいるわけです。いろいろ矛盾はあるにせよ現実にそういう制度があり、機能しています。が、なかなか生活を保障するための、居住だとかそういうことに目が行かないですよね。

それは僕の生きているような研究の世界でも一緒です。たとえば、僕も院生時代、貯金がだいたいゼロから15万円くらいという生活を5年ほどしていました。当時は病気になっても病院にも行けないという生活でした。けれども非常に矛盾を感じたのは、いろんな研究助成があって申請書を書いて、うまく通れば研究資金がもらえます。でもそれは使途が決まっているわけです。研究のためにイギリスに行きたいといえば航空機代は出るし、ホテルに泊まれば1泊1万円でも、それは出ます。けれど、京都で生活していて家賃が払えないというのはどうにもならないのです。

芸術にしても研究にしても、補助金制度などの支援の中で、成果とか制作活動云々の前にまずその人が暮らしていけるという大前提が、よく抜け落ちていると思います。その中で、HAPSの事業は居住のところにひとつの焦点をあてているというのはいいなと思いました。やはり生活があってはじめてできることがたくさんあるわけですから。

イギリスにニューディール・フォー・ミュージシャンズという制度があって「自分はミュージシャンだ。才能はあるけど食えていない」と自己申告すると18ヶ月失業手当がもらえるという仕組みです。ベーシック・インカムと違うのは、そもそもミュージシャンだということを政府に認定されないといけない、売れてないと認定されないといけないなど、いろんな難点があるわけです。しかもなんでミュージシャンだと、アーティストは違うのか、ノベリストは駄目なのか、詩人は?とかいろんなことが出てきます。じゃあ、ぶっちゃけ、みんな認めちゃえばいいじゃないかと僕なんかは思うわけです。

要は、ある種の価値をこの社会の中に生み出している人がいて、その生み出した価値を他の人たちと共有している。けれども、そのことによっては食べられない人たちが現にいること、そういう人たちがどうすれば価値を社会に付け加えていくことが可能になるか?という発想が必要です。

そういうものとして、僕は、ベーシック・インカムを考えることができると思っています。また、その辺のところがHAPSの事業と重なり合うのではと考えています。

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