ギャラリーの床面いっぱいに、植物のつるのような立体がはびこっている。床面と言ったが、天井からテグスで吊り下げられ、膝くらいまで床から浮き上がっていて、波のようなうねりを見せている。白いつるからは白い花がところどころに咲いている。花びらには虫などの生き物が描かれている。
暗い部屋に白い作品だけが浮き上がっている、静謐な空間はともすれば「死」さえイメージさせるが、よく見るとむしろこれは「生」を表現するインスタレーションであることがわかる。
それは、前に述べた通り、モチーフが命あるものだということと、加えて素材に透明感があって薄く輝いていることから来る印象だろう。しかしこの透明感は、今までに見たことがないものだ。樹脂でもないし、いったいこれは何の素材で出来ているのだろう?
「透光性九谷焼です」ギャラリーのスタッフが教えてくれた。九谷焼は磁器の一種であるが、磁器が陶器と違う点は、陶器が土を比較的低温で焼くのに対し、磁器は石を砕いた粉を高温で焼くというところにある。そのことによって、磁器はなめらかで硬質な質感を持つ。透光性九谷焼は、さらにそれに白さと透光性を与える加工がされているということだ。
磁器で植物のつるのような細くて長いもの(直径は1cmなかったと記憶している)を表現するとは、考えてもみなかったので、驚かされた。しかもこの展示では吊り下げられている。割れたり、折れたりすることはないのだろうか。
「過去の展示では展示中によく折れたそうですが、今回は折れていないと聞いています」と、スタッフの答え。展覧会の数を重ねることで、独自の技術を積み上げていったことがうかがわれる。
この、一見不可能にも見えるような技術を身につけたことについて、作家の高橋治希は興味深いことをコンセプトシートに書いている。「自分は不器用なのでこのような表現をしている」と。
端正な花やつるを表現できるのは、器用ではないかと考えられがちだが、本当に器用な作家ならもっと簡略化した方法を考えるのではないか。素材と率直に向き合い、たびたびつるを折りながら、高橋はこの表現にたどり着くことが出来たのだろう。
波打つようにも見えるつるの広がりは、不断の「不器用な」取り組みによって可能なものになったのだ。
この展覧会では、まず磁器の可能性に圧倒される。だが、この作品はそれだけにとどまらない。磁器の素材である石と植物などの生命をめぐる、高橋独自の世界観によって、生き物たちが静かにひそやかに呼吸をしているような、生命感に満ちた空間を構築することに成功していると言える。
2015.04.02
―呼吸するように―
高橋治希
ギャラリー16
2015年1月15日(木) - 2015年1月30日(金)
レビュアー:堀博美