キミを知らない 唐仁原希 / MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w
唐仁原希の描く世界を、さも嬉しそうに「カワイイ!」と形容する人があったら、私は疑うだろう。「この人は一体、彼女の絵にしばしば登場する無邪気らしい少年少女を文字通り愛でているのか、それとも、不覚にも直観してしまった、世界の背後の、妙に輪郭のはっきりした影をあまりにも畏れ、気づかぬ振りをしながら、それを共有してくれる誰かを捜し求めているのではないか」と。
展覧会『キミを知らない』は、19世紀ヨーロッパのお屋敷を思わせるサロンや寝室で、大きな目の子どもたちが噛み合ない遊びに耽っている様を描いた、一連の絵画を中心に構成されている。これまでの作品にも認められた、見開かれた目、半身が子鹿やマーメイドの創造物、厳格な西洋絵画中に迷い込んだキャラクターやマンガ本、キッチュなオブジェという、ポップ&キュートなエンブレムは健在である。だが、そこでは何かが動き始めており、静かなお屋敷の絵画を堪能する私たちは、重要な出来事の証人となることを余儀なくされる。
作品《秘密は話さないほうがいい。》は、約2×3メートルの大画面の中で少年少女が思い思いの遊びをする楽園だ。ベッドにはドレスを纏った五人の少女と、マンガに没頭するマーメイドの少女がいる。二匹の黒猫、子やぎのすぐそばに白い少年が立っている。気にかかるのは、サーカスの小さなテントに蠢く狼の影と、枕元で微動だにせず、背を丸める真っ白な少女のことだ。さらには、目を凝らせば偽物とわかるマーメイド少女の尾ひれや、部屋の絨毯を行進するおもちゃの兵隊が率いているのが棺桶の列であるという事実だ。
奇妙で平穏な世界は、突如化けの皮を脱ぐ。それはちょうど、マーメイド少女の尾ひれが偽物で、半獣人はこれより「人間」と呼ばれるようなことだ。そのとき作家は語りかける。「キミを知らない、だから、怖がらなくていい。」
私たちは、こうして受け入れられるのであり、世界と関係を結ぶのだ。