構造から運動へ
この展覧会は、京都初の国際舞台芸術フェスティバル「KYOTO EXPERIMENT 2013」のメインイメージとして使用されている、作家松延総司による作品<Twisted Rubber Band>を紹介するものです。
会場となったギャラリー・パルクによるステイトメント(http://www.galleryparc.com/exhibition/past/201309-02-matsunobe.html)に、「ひとつひとつの構造体として一瞬の姿を静止させられた輪ゴムは、日用品としての輪ゴムから飛躍し、個体性を持った生物の標本のようにも見えます。」とあるように、この作品は日常的な素材である「輪ゴム」に捩りの力を加えることで生まれた「構造」を見せる、というシンプルな操作からなっています。
「KYOTO EXPERIMENT 2013」の一連のイメージ、また松延のウェブサイト(http://matsunobe.net/work-2012/TRB.html)での作品紹介を見ると、この作品は写真を使った作品であるととらえられます。しかし、展覧会会場を訪れてみると、この作品がインスタレーションと思しき作品であるということに気づかされます。
会場の既設ガラスに貼り付く捩れる輪ゴム。円柱のような容器に詰め込まれたおびただしい数の捩れる輪ゴム。そしていかなる捩れがそこに起こっているのかがしっかりと見ることができるよう、支柱に固定されケースに収められた四つの捩れる輪ゴム。写真としての輪ゴムを見せるのではなく、ここではあくまでもモノとしての輪ゴムを見せています。
この作品が写真のみで受け取られている際には、「捩れた輪ゴムをわざわざ高解像度の写真にする」というひとつ差し挟まれた対象化とでも言うべきものによって、この作品は日常的な輪ゴムからある構造へと「飛躍」していたように思われます。上で触れたステイトメントにあった「標本」という言い方は、それが写真という対象化によって構造のバリエーションを記録している、という、客観的な形式によっていたのだろうと推測します。対して、今回は日常的なものが、ギャラリーという空間ではあれ、日常的なものの中に置かれていることが違いとして見えてくる。
ただ、さらによく見てみると、ガラスに貼り付いているように見えた輪ゴムは、既設ガラスの上に貼られた新たなガラスとの間に挟まれている、ということが分かります。同様に、容器に詰め込まれた輪ゴムは輪ゴムと輪ゴムの間で窮屈そうにしているし、ケースに入れられた輪ゴムは支持体に固定されているという側面が明らかに見えてくる。つまり、ここに置かれたそれぞれの輪ゴムは、物体と物体との関わりの中に置かれている、ということに気づきます。写真の中で一瞬閉じ込められ、運動体としてよりも構造としての側面が定着させられた<Twisted Rubber Band>に、重力や他の物質という二重の「重さ」をもう一度担わせ、「運動体」として見せること。これが、この展覧会で目指されていたことかもしれません。
そう考えてみると、<Twisted Rubber Band>という「作品」は、また別の目的のもとに、新たな形式を取って展開していくのかもしれません。そういう「次があるかもしれないぞ」ということをほのめかす展示でもあったと思います。