Exhibition Review

2013.02.11

もじゅうりょくツアー

大原大次郎

ホテル アンテルーム 京都 GALLERY9.5

2012年12月15日(土) - 2013年1月14日(月)

レビュアー:政木哲也




着地するまでの時間


私たちは街の中を移動するたびに、膨大な量の文字が現れては消えていく様を目にしている。看板であったり標識であったり、道行く人々が着ているTシャツであったり。視界の中に一瞬入った文字を私たちはほとんど「自動的に」読んでしまう。たとえ文字が部分的に欠けていたり隠れていたりしていても、賢い私たちの目はすぐに情報として取り込んでしまう。

しかし、ぱっと反射的に読んで分かったつもりでいた文字が、再びその不完全な姿のまま自分の真正面に出現したとしたら、どんな心持ちになるだろう。大原大次郎の展示<もじゅうりょくツアー>では、街の中でするりと私たちの目がつい読んでしまったそんな文字と、じっくりと向き合う体験ができる。

会場に入ってまず目に入るのは、天井から吊り下げられた黒い針金によるモビールの数々である。一目見て私たちは、それがなんらかの文字を表していることを理解する。と同時に、一体何の文字なのかすぐに判読できないために、つい目が離せなくなるだろう。針金はくるくると空中を回り、姿を変える。文字みたいでまだ意味を持たない文字以前の形がくるくる動くのを見ていると、いつも急いで意味をつかもうとする自分の習性がくすぐられているみたいでこそばゆい。

ホテルのロビースペースに点在する作品は、どれも私たちが街で見かける文字のように、一見取っつきやすい姿をしている。しかしここにある作品は、触れようとするとすっと遠のいて行くような奥行きを持った文字である。であるから鑑賞者も心を決めて、じっと見つめるうちに焦点が合ったときみたいに、意味が立ち現れるまでの静かな時間を感じるのである。

アーティストの巧みな筆致によって描かれる線は、くるんとたわみ、ぴんと跳ねる。まるで幼い子供がからから笑うように。文字が本来の意味へと着地するまでの「もじゅうりょく」の時間を、いっしょに微笑みながら楽しんでみてはどうだろう。

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