「化石を彫る」
2014年9月16日から9月21日までギャラリーすずきで行われた「白上太朗展」において、白上は恐竜の化石の彫刻作品を発表した。化石は全て木彫によってできており、大小の作品11点程が主に天井から吊り下がる形式でインスタレーションされていた。
「化石の彫刻」とは何とも変な響きである。なぜなら化石こそ既に自然の力によって作られた彫刻作品だと考えられるからだ。
美術館・博物館の持つ役割の一つとして「保存」ということを挙げるのであれば、地面の中、そして化石そのものもまたミュージアムとしての性質を持っている。化石は当時の記憶を保存するという観点から見れば最高のメディアとして存在しており、その化石は地中によって保存されてきたのである。
化石は「掘られる」ものであって「彫る」べき対象物ではない。それはどんなに頑張っても何千万年という年月を人間が彫り込むことができないからだ。
ではその化石を人間がわざわざ彫り直すことにどのような意味があるのだろうか?
ギャラリーに充満する異様な静けさは、作品の「標本性」から発せられている。白上の作る化石の彫刻は、言い換えるならば彫刻の彫刻、つまり彫刻を保存した、「彫刻の標本」と呼ぶことができる。「彫刻」というメディアそのものを別のメディアに保存することによって、私達ははじめて「彫刻」そのものについて考えることが可能になるのだ。
さらに白上はその彫刻を室内にぶら下げることによって、化石をもう一度地中にあった状態のように戻すことに成功している。鑑賞者は自らの目で空間を掘り進み、化石を発掘するような体験をさせられる。
何千万年という年月を今作り出すことはできないが、これから何千万年先の人類のために「彫刻」を化石にして残すことはできるかもしれない。そのとき白上の「化石の彫刻」は「彫刻の化石」へと逆転する可能性を持っている。
そしてもちろん本物の化石に見紛うほどの精密・丁寧な手仕事が、強固な地盤となって化石を保護しているのである。