戦国時代は日本史のなかで最も人気のある時代だ。現代でも『戦国無双』といったゲームや東村アキコ『雪花の虎』のようなマンガなど、サブカルチャーの題材にされることも多い。キャラの立った名将たちが天下統一を目指して戦う、というイメージが想像力を掻き立てるのだろう。
「戦国時代展」は、歴史マニアから美術ファン、オタクまで、幅広い層にむけられた展覧会だ。上杉家文書の一挙公開は圧巻としか言いようがなく、上杉謙信の「唐草透彫烏帽子型兜」は、繊細な透かし彫りの兜に黒漆で塗られた「無」の一文字が厨二病にはたまらない。
特に京都人にとって、狩野永徳「上杉本 洛中洛外図屏風」(以下、上杉本と略称)を現物で見ることは得難い経験となるだろう。清水寺、比叡山、御所、下鴨神社といった馴染みの場所が描かれていることはもちろん、祇園祭の迫力ある描写は町衆たちの様子を生き生きと伝えている。内藤湖南は現代の日本を知るには応仁の乱以降を知れば十分である、と書いたが、応仁の乱で全てが焼失した京都を復興したのは、この町衆たちなのだ。
また、ここで注目したいのは、上杉本が描かれた政治的な背景である。黒田日出男『謎解き 洛中洛外図』によれば、そこにはありのままの現実ではなく注文者の意図が強く反映されている。既に政変によって消滅した体制と、その体制を壊して実権を握った新興勢力が同時に描かれ、それらを一段上から包摂する十三代将軍足利義輝の構想する政治秩序が表現されているのだという(呉座勇一『応仁の乱』は数ある洛中洛外図屏風は理想を描いた「絵空事」とする)。
本展は「終章 新たなる秩序」と題して、徳川家康の肖像画である「東照大権現像」と「大原観音寺文書」に記された民衆の平和への願いで終わる。神格化された家康と神仏に祈った民衆。本展の副題は「どんな夢を見ることだって、できた。」だが、この展覧会自体が何層にも重ね合わされた夢の枠組みの中で展開されていたのだ。