今回展示されたのは東寺百合文書の二万五千通に及ぶ古文書の中から、歴代足利将軍の直筆の文書で、内容はもっぱら政治的な命令、通達である。とりわけ東寺に対して、内乱の最中、自分達の戦の武運を祈るように通達した文書は、数も多く内容もほぼ定型文だ。しかしそこに封じ込められたアウラとでも言うものは一つひとつ違っていて観ていて飽きることがない。
今回最も目を引いたのは、出展番号でいうところの八番、十三番だ。というのは名称の区分けがされておらず、今回の出品リストには「足利義詮御判御教書」というのが、三十近くある。よって資料に振られた番号が個別を指定できるものになる。この二種のうちの、確か記憶が正しければ八番、ひときわ目を引いた。ピンと張り詰めた空気が、まるで透明樹脂の中に封じ込められたかのようにそこにあった。美しかった。
解説を読むと、ちょうどこの日、敵方が駿河府中に入り、戦に及んだ。(文書には日付けが書かれているのでそれがわかる。)その結果、足利義詮の父足利尊氏は駿河府中を攻略するのだが、この内乱の最中に、義詮が東寺に対し武運を祈るよう発給したものだった。武運というと語弊があるかもしれない。命令は「天下静謐のための祈祷」だからだ。いずれにしても、当時いかに祈祷が重要視されていたかが伺える。
また足利尊氏、義詮の親子の対比も興味深かった。尊氏は細い線と太い線が入り混じり、変化がある一方短気にも見えるが、義詮は線そのものにはそれほど変化がなく一定し、紙面の空間処理も良い。ゆえに比較的落ち着いたバランスの取れた人柄が伺える。尊氏と義詮は、性格の全く違う、ほぼ正反対ですらある親子だったのかもしれない。
これらの文書群はユネスコ記憶遺産登録候補として、つまり記録としての評価を得ようとしているわけであるが、書としての観賞の立場からも研究が進むことを願う。