二条城のなかに大統領の部屋があって、奥にはなにか生きものの頭が並んだ部屋がある。平日の朝9時くらいで、どの部屋にも私と監視員さんしかいない。もっとかっこいい靴下を履いてこればよかった。どの部屋でも私は蚊に噛まれて、殺すのに失敗する。監視員さんはぼこぼこになっているんじゃないかと心配する。陶器の部屋には他の部屋からの音――なにかがきしんだりぶつかったりする音、子どもがかみながら「西京国」のPR文を読む音――が聞こえてきて、私にというよりも陶器の頭たちに聞かせているみたいだ。私もなにか生きものたちに聞かせたいと思ったが、監視員さんの目を気にして「蚊が」としか言えない。
頭をまたいだ先にある部屋ではモノクロの映像が流れていた。小屋が燃えたりしていて、生きものたちは燃えた人やものへの供物かなと思う。たとえば大統領とか。
靴を脱ぎ履きするところに私を2人横たえた大きさの大根がある。大根のなかからは激しいモーター音がしていて、今にも葉っぱを翼にして飛び去っていきそうだ。涼しいところまで私を乗せていってほしい。外は36度で、日焼け止めを塗るのを忘れてきたのだ。
離れたところにある小屋には20個くらい電球が並んでいた。二階から聞こえてくる台風の日みたいな音に合わせて光量が変わっていくのを見ていると、なんだか涼しい気がしてきた。ときどきなにかが飛んでいる音が聞こえてくるので、あの大根が空を飛んでいるのだと思う。この部屋で昼寝をしたかった。
お城の外を歩き回っていると、十メートルは超えていそうな石垣の岩と岩のあいだに布が挟まっていた。いろんな色の血みたいで、これが一番好きかもしれない。同じ広場にあるベンチも展示物になっていて、私にはそれがホームレスの人にしか見えなかった。
金と銀のあいだの色でコーティングされて捩じれた木が道にぽつぽつと落ちていた。なにか生きもののうんこみたいだ。その近くで大きな赤い花のようなものが地面から生えている。十秒くらいの間隔で花びらが上がったり下がったりしていて、モーター音が聞こえてくるので、大根の仲間だろう。羽ばたいて今から飛び立とうとしているというよりは、空から墜落してきたところのように思える。それがうんこを落としたのかもしれないし、電球の小屋の台風で落ちてきたのかもしれない。暑さで死にかけている私のようにそれも瀕死なのだと、感情移入しちゃって泣けてきた。
休憩所でぼーっとしていると知らない小さな男の子が私の太ももに抱き着いてきて「ジーパン履けるようになったよ」と言ってきた。よくわからないけれど、がんばりたい。