ギャラリーは展示の入れ替えが早く、少し目を離すと作品を見逃す可能性がある。そんなもったいないことはできない。と足繁く通う私が今回観に来たのは、ギャラリーマロニエで開催されている「山本佳子 GLASS WORKS-Moon Seed Project-孵化」。
少し暗くて静謐な空間というのが第一印象だった。会場にはガラス作品の入ったディスプレイケースたちが壁に沿って規則正しく並び、その奥には台座と壁にそれぞれ作品が置かれていた。台座にある作品と壁の作品はセットだろうか、地上の花がたんぽぽの綿毛のように花弁を飛ばし、空を舞う姿が展示されている。実際ふっと息を吹きかけたら今にも飛んで行きそうな程薄くて繊細な作品なので、何かの拍子に壊れたらどうしようと少し緊張してしまう。さらに、じっと観ているとこの作品たちは、根に天然の石を敷き詰めたり、本物の木の枝や植物を一部に生やしたりと自然と人工が同居した存在であることに気がついた。自然がつくり出した美と人の手がつくり出す美。これらが共存することで、作品がそこに生きている感じを強く受けた。
周りに目を移し、ディスプレイケースたちを確かめる。中にはそれぞれ作品が一つずつ置かれ、まるでショーケースに飾られた宝石のように美しい。そして、外からではなくケースの内から作品を通して外へと光を放っている為か、作品自体が輝き「私を観て」と語りかけてくるかのようだった。感触なんてないはずなのに「やわらかそうだ」と思える程に淡く優しい光は月明かりのようで、いつまでも観ていたくなる。
横たわった種子やとげとげしい実等様々な形状をしているが、そのどれもが綺麗な花や葉を伸ばし、優しい光を放つ。これらを周りにして会場の中心に立つと、どこか別の世界に立っている感覚さえしてくるから不思議だ。日常からかけ離れ、優しく淡い光の溢れるこの場所は、もしかしたら月の世界なのかもしれない。展覧会名に入ってる通り、ここに咲いた花たちは月の種から生まれたもので、月にお花畑があったならきっとこんな風景なのだろう。そうか、ここは《月の花園》に違いない。
もしも月で散歩ができたなら。なんて手の届かない神秘的な場所を想像する面白しさがここにはあり、それだけで心軽やかに楽しくなってくる。月は無重力だから・・・というわけではないが体まで軽くなったような気もする。そんな癒しのひと時を過ごせた展覧会であった。