入口右手に顔がスピーカーになった人が座っていて、なにか英語でつぶやいていた。「部屋に座っている」「自分の話していることと部屋の音を記録している」「共鳴」「ねむたい」だとか言っていた。
大きな空間に入るとまず奥の方で人がうつ伏せになっているのが見えた。死体だと思った。殺されたんだ。私は名探偵コナンの新刊を読んだばかりでそういう気分だった。
大きいモニターにどこかの監視カメラから中継しているような映像が映っていて、これは殺人犯が見ているものだと思った。振り返ると空のベッドがあり、その上でPCが開かれている。壊れた画面のなかで若い黒人男性がときどき白目を剥きながら歌をうたっていた。ベッドに触れてみると冷たく、私は「ねむたい」と言っていたスピーカー人間のことを思い出す。これはスピーカー人間のベッドなのかと思うが、死体か殺人犯のベッドかもしれない。枕の脇に飴の包装ビニールのようなものがあり、そのなかにあるものが私には切断された二本の指に見えた。
奥にいた死体が起き上がった。死体は壁に貼られた自分の死亡現場の写真をじっと見つめはじめた。この写真を撮ったのが殺人犯にちがいない。後でチラシを見ると、その写真を撮った人は微妙に知り合いの人だった。
監視員さんが立ち上がって、私たちの方にきた。監視員さんも死体なのかと思ったが単に交代の時間のようだった。
木で組まれた小部屋のなかに『絞死刑』という本があって、私はピンときた。だれかがだれかを絞殺し、頭をちぎりとって代わりにスピーカーを首に嵌め込んで展示会場入口に座らせたのではないだろうか。気がつくと死体はいなくなっていて、私は写真を撮るのを忘れていたことに気がついた。コピー機、灰皿、コピー機にかけられたiPhone、手袋、手、生のパスタ、猫よけのペットボトル、植木、メロンの箱で包まれた監視カメラ、赤や緑に光る山みたいなもの、大きいモニターに映る私の影、影の寝ぐせ……。
2017.08.01
2017年度 学内申請展「シンフォニーLDK」
荒木優光、小松千倫、石塚俊、アーカイブスペイ
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
2017年7月8日(土) - 2017年7月23日(日)
レビュアー:大前粟生 (24) 小説家