Exhibition Review

2021.10.25

ヴォイス・オブ・ヴォイド—虚無の声

ホー・ツーニェン

京都芸術センター

2021年10月1日(金) - 2021年10月24日(日)

レビュアー:山際美優 (22) 大学生

1941年11月末、真珠湾攻撃の直前に、「京都学派四天王」と称された高坂正顕、西谷啓治、高山岩男、鈴木成高の四人は、京都・東山の料亭「左阿彌」で「世界史的立場と日本」と題した座談会を催した。八畳の客間、窓の外には赤く染まった紅葉が覗き、四人の男が一つの卓を囲んで座している。シンガポール出身の作家ホー・ツーニェンが一連の映像インスタレーション作品≪ヴォイス・オブ・ヴォイド-虚無の声≫の中心的問題に据えたのがこの座談会である。
この一連の作品は、それぞれ二面一対からなる三つのビデオ・プロジェクションから構成されている。「監獄」、「空」、そして「左阿彌の茶室」である。「監獄」では、京都学派左派とされる三木清と戸坂潤の論考が紹介され、二人ともが戦時中に獄死したことから、宙に浮いた豊多摩刑務所の十字舎房がその舞台となっている。十字舎房の中心の上には、青い球体が浮かんでおり、この球体の内部に「左阿彌の茶室」の舞台が設定されている。そのさらに上空には、幾体もの「ガンダム」のような戦闘ロボットが構えている。これが「空」の舞台となる風景であり、ここで田辺元が京都帝国大学で行なった公開講座「死生」が紹介される。CGアニメーションの不気味な造形、不穏に重なりあう音声。京都学派の面々は、右なのか左なのか、戦争協力したのか、反対していたのか、善か悪か、天国か地獄か。作品内で語られた音声を聞く限り、それらはすべて宙吊り状態の判断保留にある。
KYOTO EXPERIMENTの一環として行われた今回の展示は、旧明倫小学校がその舞台となっている。京都学派と縁の深い、ここ京都という地で、彼らが活躍した時と同時代に建てられた明倫小学校で鑑賞できるというわけだ。とりわけ「左阿彌の茶室」は、建物の4階にある和室「明倫」で鑑賞することができる。ミシェル・フーコーは、近代の管理システムとして、監視と規律という観点から監獄と学校の類似性を指摘した。すなわち、ここで設定された和室「明倫」とは、いわば監獄の上に浮かぶ青い球体の中なのではないか。下は監獄、上空には戦闘ロボが構えている。京都学派四天王とともに、畳の上の座布団に座し、一つの卓を囲む。不気味な造形、不穏に重なりあう音声。窓の外には赤く染まった紅葉が見える。果たしてvirtualなのかrealなのか、全く宙吊りである。

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