京都清宗根付館は根付専門の美術館だ。今回私が訪れたのは4/1〜4/30に行われた『春の根付特別企画展 夢』。「夢の形」をテーマに集めた小さな彫刻たちの夢想の造形は、見入ると現実を忘れさせられた。
まず、現代根付作家の齋藤美洲作『蝸牛(かたつむり)』が目に留まった。珍しい素材のひとつである「セイウチの牙の化石」を使った作品だ。なめらかな乳白色。濡れた光沢。手に収まる柔らかい形は根付の特徴でもある。色もなまめかしい三匹のかたつむりがからみ合う。
清宗美術館は古典根付・現代根付を合わせて約400点の作品が常設展示されている。その作品群は圧巻だ。これだけの数を一挙に鑑賞できるのもめずらしい。世界的コレクターである高円宮殿下の作品を所蔵している東京国立博物館の高円宮コレクションも、一回の展示数は20〜30個だろう。
江戸時代、町人のアクセサリーだった根付は江戸文化と共に芸術品として発展したが、明治時代に外貨獲得のため大量に輸出され、多くの古根付が海外に流出した。名品は海外の美術館や蒐集家(しゅうしゅうか)の手にあるもののほうが多いと言われている。館長の木下宗昭氏は「日本の伝統芸術を日本で保管する」目的で2007年、この京都清宗根付館を開館した。蒐集家としての館長の裁量と熱意を感じられる。
展示法が根付を鑑賞するのに特化していることに注目したい。4〜7cmの緻密な作品を見るためにルーペを設置。根付作家の卓越した技術を鑑賞できる。裏まで意匠のこらされるこの立体物をミラーを置くことで多角度から眺める。展示ケース内のコップに張られた水は、素材が乾燥してヒビ割れを起こすことを防止している。
この建物は京都市指定有形文化財に指定された京都に残るただひとつの武家屋敷だ。入館すればタイムスリップしたような感覚に陥る。江戸時代に実際使われていた根付たちの役割をたたえ、屋敷が共鳴しているようだ。建築も鑑賞したい美しい美術館である。