開催情報
【作家】ジョナサン・ハマー【期間】2021年7月30日(金)- 9月11日(土) 内覧会:2021年7月29日(木)
【開館時間】10:00 – 18:00
【休館日等】日・月休廊
【料金】無料
会場
会場名:現代美術 艸居webサイト:http://gallery-sokyo.jp
アクセス: 京都市東山区古門前通大和大路東入ル元町 381-2
電話番号:Tel: 075-746-4456
概要
この度現代美術 艸居と艸居アネックスでは、2021 年 7 月 30 日(金)から 9 月 11 日(土) まで、ジョナサン・ハマー個展「OPERATION OCTOPUS」および丸川コレクション展「巻 物と触手」を同時開催いたします。艸居にて行われる個展では、ハマーの代表作である、多彩でエキゾチックな動物の皮と金箔 押しを特徴とするマケトリー(木象嵌)作品、四国産の手漉き和紙に筆を走らせたドローイン グ作品のほか、3 点の新作陶作品を展示いたします。日本では 2 度目、艸居では初めての展示 となります。艸居アネックスでは、ユダヤ人と日本人という異文化間に成り立つ友情や共感か ら始まったというハマー作品の丸川コレクションより貴重な過去作を展示し、作家のこれまで の活動が最新作とどのような繋がりを持っているのかを検証します。
世界的な移⺠問題や自身の家系がたどってきた歴史に触発されたハマーは今回、継続的に展 開している《Kovno/Kobe》(コブノ/神戶)プロジェクトの最新作を発表します。リトアニ アのコブノ(現・カウナス)のユダヤ人が日本人外交官・杉原千畝(すぎはら ちうね)の「命 のビザ」発給によって大挙して国外へと逃れ、ロシアを経てやがて神戶で逗留するという第二 次世界大戦中に起こった出来事を見つめるプロジェクトです。
「急激かつ突発的に異文化に接するとき、他者というものはどう見えてくるのだろうか」‒‒‒ この自身の問いに対しハマーは記号論(記号、シンボル、用途、解釈を中心とする思想体系) を援用して解き明かそうとします。アウトサイダーの誤解と曲解された日本像が織りなす日本 の歴史を思うとき、この問いはいっそう強い関連性を帯びてきます。難⺠の受け入れ側は難⺠ をどう見ているのか?そして、その逆はどうだろうと‒‒‒。日本へやってきた最初期の⻄欧人が 経験した文化的衝突を描き出す 16 世紀の南蛮屏風から着想を得たハマー作品は、神戶に逗留 した東欧諸国のユダヤ人の経験への共鳴を試みます。ハマー作品《Operation Octopus》は記 号論的な表象というテーマに深く入り込んでゆき、タコをユダヤ人に替わるイメージとしてと らえ、ユダヤ人難⺠の巻き毛の髪をタコの足になぞらえています。
京都・蛸薬師(たこやくし)堂に伝わる、よく知られた話があります。戒律を破った僧侶 が、死にゆく御母堂が食べたいと望んだことから生きたままのタコをたずさえて京のまちを歩 いたという説話、ハマーはこれを今回の京都展示の中心に据えています。‒‒‒住職や寺内の僧侶 が、道ゆくこの僧侶を捕まえて箱の中身は何かと問いかけ、背徳の僧侶が箱の蓋を開けると目 を疑う光景がそこにありました。タコは箱の中で経典に姿を変えていたのです‒‒‒。ユダヤ教理 を修めた者は、数百人単位の虐殺がありながらも、杉原千畝の手によって救済され日本へと逃 れました。ハマーがタコの足になぞらえている、巻き毛をたたえる若いユダヤ人学者の大部分 は、ユダヤ教の経典であるトーラの巻物の守護役を務めていました。今回、ハマーは蛸薬師道の伝承を持ち込んで、コブノから神戶へたどったユダヤ人の記号論的な解釈に重ね合わせてい ます。
行き場を失い離散した人びとに起こる自己性の変容と崩壊‒‒‒多彩でエキゾチックな動物の皮 を配し、制作には骨の折れるマケトリー作品ですが、ハマーは半ば抽象的かつ比喩的なスタイ ルで、断片化されたアイデンティティのパズルというべきものを精緻に再構成しています。本 作品で描写されるタコは、羊皮に綴られたトーラへと、まざまざとその姿を変えます。
本展示の表題作《Operation Octopus, 2020》は、サケ、リザードシャーク、カエル、ビーバ ーの尻尾、アザラシ、ヘビ、エイなどの皮を配した木象嵌作品で、1930 年代の日本を魅了し た、アールデコの影響が色濃いヨーロッパ的なデザインを取り入れています。本作品が示唆す るものは、動物が経典へと変貌を遂げるなかで生まれる奇跡的な瞬間であり、異文化間での解 釈の相違を下敷きとした鏡像です。本大型作品では、帽子の中にあるタコは敬虔な巻き髪のユ ダヤ人に、カニの甲羅に見立てた巻物の上端にあるトーラ冠はカニへと、それぞれの形態の変 容が見て取れます。
この大型作品に加えて、今回 3 点の小さなレザーパネル作品も展示し、大型作品と同様にユ ダヤ人になぞらえたタコが経典に変化を遂げる瞬間を見つめます。そのほか、同じく京都に伝 わる伝承を取り上げたドローイング 7 点、タコが本を象った木製ブロックに姿を変える陶作品 3 点も紹介いたします。
ジョナサン・ハマー
1960 年シカゴ生まれ。現在スペインに在住し制作。これまでに 45 回以上の個展を様々な国に て行う。30 年に渡りドローイングや写真、書籍、彫刻、陶、版画などに加え、代名詞でもある 珍しい動物たちの皮を繋ぎ合わせた装飾パネルを作成。これまでドイツ、スイス、ノルウェ ー、フランス、イギリス、アメリカ、メキシコ、そして日本にて幅広く展示を行っている。ニ ューヨークでは 10 回の個展を開催(そのうち 5 回はマシュー・マークス・ギャラリーに て)。美術館での数多くのグループ展に加え、ジュネーヴ現代美術センター(ジュネーヴ・ス イス)やバークレー美術館(バークレー・カリフォルニア・アメリカ)、ダーフナー美術館 (ブロンクス・ニューヨーク・アメリカ)にて個展を行っている。コレクションには、ニュー ヨーク近代美術館(ニューヨーク・アメリカ)、サンフランシスコ近代美術館(サンフランシ スコ・カリフォルニア・アメリカ)、ロサンゼルス現代美術館(ロサンゼルス・カリフォルニ ア・アメリカ)、アーマンド・ハマー美術館(ロサンゼルス・カリフォルニア・アメリカ)、 バークレー美術館(バークレー・カリフォルニア・アメリカ)、ホイットニー美術館(ニュー ヨーク・アメリカ)、ジュメックス・コレクション(メキシコ)などがある。出版物には『球 と金槌(BALL AND HAMMER)』(エール大学出版、2002 年)があり、チューリッヒ・ダ ダに関する批評を執筆している。入賞歴には、アート・マターズ・ニューヨーク、プロ・ヘルヴェチア(スイス・アート・カウンシル)、ニューヨーク・ユダヤ文化記念財団、ポロック・クラ スナー財団、ピュー慈善信託などがある。また、スペインのアーティスト・レジデンス「ヴィラ・ ベルジュリー」の創設者である。