HAPSスタジオ使用アーティストのValentin Gabelier(バロンタン・ガブリエ)が参加する展示のお知らせです。
概要
Lost in Translationhttps://gallery.kcua.ac.jp/archives/2021/7078/
会期:2021年9月1日(水)〜2021年9月19日(日)
会場:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
料金:無料
概要
本展のテーマは以下の三つである。1. 大災害、大変動の時代に革命的変化を求める世相を追い風に、世界の価値観を刷新し、単に牧歌的・ユートピア的なヴィジョンではない、新しい持続可能なモデルを構築することは可能だろうか。
2. 資本主義を葬り、既存の不平等を是正して、より大きな社会正義が実現され、社会から排除されてきた集団も包括するような新しいシステムを提案することは可能だろうか。
3. 言語コミュニケーション上の齟齬、誤解、またそもそも失敗というカテゴリーは、芸術的実践の基礎となりうるだろうか。それは逆説的に、互いを知ることや相互理解の最良の方法にならないだろうか。
こうした問いに答えようと、様々な文化的背景を持つ作家たちを交えて継続的に取り組んできた成果が本展では示される。滞在制作、あるいはリモート制作された本展は下の三つのパートから成る。
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・災害ユートピア
レベッカ・ソルニットが提唱した概念によれば、大規模な災害が発生すると、人々の連帯感・気分の高揚・社会貢献に対する意識が高まり、一時的に高いモラルを有する(理想的といえる)コミュニティが生まれる。そのコミュニティは災害発生直後の短期間だけ持続し、復興が進み共通意識が薄れるに従って、自然と解体されていく。それは災害を契機に生み出され、消えるユートピアと言えよう。歴史学者テッサ・モリス゠スズキは、日本でも2011年の東日本大震災直後、絆や復興をスローガンに社会活動が起こったが、次第に縮小していったことを指摘している。現在渦中にあるCOVID-19の場合も、ベーシック・インカムなどこれまで実現不可能と考えられてきた思想が注目を集めている。
・不可能を可能に
一方、アーシュラ・K・ル゠グウィンは『反グローバル資本主義』に「私たちは資本主義の時代に生きており、その権力は不可避に思える。しかし王権神授説も同様だった」と書いた。ポストコロナ時代には、従来の常識を覆す思想が新しい基盤になりうる。つまり、フェミニズム、LGBTQ+、外国人・移民受け入れなど、社会に拒絶されてきた思想・世界観を再考し、社会を更新する機会になるのではないか。
・ロスト・イン・トランスレーション
「ロスト・イン・トランスレーション」という言葉は、何らかの欠落、意味伝達の不可能性、それに伴うコミュニケーションの阻害や疎外感を指しているように思える。しかしこの態度を肯定的に捉え、迷うことを自分に許すなら、それはお定まりの型やスキーマに従うこと、頼ることをやめ、完璧で誤謬のない退屈な翻訳では誰も気づかないような、全く別の新しいコミュニケーションをひらくきっかけとなるのだ。
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Valentin Gabelier(バロンタン・ガブリエ)
2021年京都市立芸術大学大学院美術研究科博士(後期)課程構想設計専攻単位取得退学。 2016年EESABレンヌ(フランス)美術学校学修士修了。パフォーマンス、インスタレーション、ビデオ、サウンドを主な媒体としながら「声」を通して世界と私たちの狭間にある異なる関係性を研究している。私たちが持つアイデンティティのひとつでもある「声」のその不安定で多様性があり曖昧な存在という特徴によって生まれる個人という概念の解体・分裂・多様化に着目している。
「Chorós」(Baléapop#10/フランス/2019)。グループ展「PARTITION―パーティション」のキュレーションと出展(京都市立芸術大学ギャラリー @KCUA /2018)。