• Thursday December 20th, 2012
  • News

Sorry, this entry is only available in 日本語.


京都に住むこと1 — 寺島みどりインタビュー

2012年6月1日
場所:京都市上京区
インタビュー:HAPS インタビュー協力:太田景子
[clear] このページでは、京都に居住しながら制作をしている方に、実際の暮らしぶりについて教えてもらいます。
今回は、上京区の町家にキュレーターの旦那さんとお住まいの絵画作家、寺島みどりさんにお話を伺いました。
[dropcap color=blue]1[/dropcap]京都に戻るまで[clear] ー寺島さんはご出身も京都なんですね。
 はい、幼少期や学生時代は伏見稲荷さんや藤森神社を遊び場にしていて、多くの時間を京都のこの環境で過ごし、制作を続けてきました。もともと絵画に興味があったので、京都市立芸術大学に入って、油彩画を選びました。しかし、課題をこなして行くなかで、三回生の時に制作展に絵画を出したのを最後に写真に移行しました。床に写真を敷き詰めたり、写真のインスタレーション作品を多く作っていました。その後は大学院に入学しました。
ー大学院修了後はどちらにお住まいでしたか?
 修了後は二年間、大学で非常勤で勤務していた後、大阪で約8年間は外の世界を知りたくて普通の会社員をしていました。大阪ではOギャラリーeyesさんやギャラリーDenさん、ギャラリー風さんで発表させていただいたりしたんですけど、働きながらだとやっぱり忙しくて、5年くらい何もできなかった空白の時間があるんですよ。これでは駄目だと、本当に自分のやりたいことは何なのかと考え、再び絵画を始めました。2003年の頃です。そして、発表を重ねて行くうちに、二足のワラジをずっと履き続けることはできないと思い、2008年に会社を辞め、絵に重点を置き始めました。2010年には京都芸術センターの公募展に選んでいただいて、公開制作で北ギャラリーの壁全面に描きました。その頃に京都にまた戻ってきたんです。
ー今の場所に移るきっかけはありましたか?
 きっかけとなったのは、大阪で暮らしていた時に夫となる原田(原田明和さん)と出会い、結婚を機に新しい住まいを探していたことです。原田のキュレーターという仕事柄、人を呼びやすい場所が良かったので交通が便利な町中、私の必須条件であるアトリエになる広さがあることを重点に探していました。そんな二人の理想通りの場所が簡単に見つかるわけも無く、予算オーバーや人気物件だったり…。ですが、知人の作家が私達の考える条件に当てはまる空き家があると今の家を教えてくれました。しばらく空き家だった物件で、リフォームもされていませんでしたが、大家さんと話し合い、アーティストだから少々汚れていても大丈夫だということを説明して貸していただくことになりました。通常、不動産で借りると綺麗にした状態で貸してもらえますが、ここは例外だったのと、思うようにリフォームしたかったので、自分達で少しずつ綺麗にしていきました。
[dropcap color=orange]2[/dropcap]町家での暮らし[clear] ーお住まいの鞍馬口はどんな地域ですか?
 ここに住んで三年目なんですが、町内会長さんに最初に言われたのが「みんなで仲良く色んな行事を一緒にやっています。とても良いところに引っ越してきましたよ」と言う言葉。毎月1回は市もやっていたり、観光情報にものっていない大規模が祭りがあったりする。昔からの居住者同士の神社が中心となったコミュニティーがここにはあるんです。私たちは町内の一員として総会への参加などをしていますが、すぐにとけ込める訳ではありません。「住む」ということは年単位なので、焦らず少しずつお互い理解し合う時間が必要だと思っています。
ー地域の中での取り組みを教えてください。
 私たちの仕事は説明が無いと理解しづらい職業なので、ある程度こちら側からオープンにしていこう、と二人で話していました。それで、引っ越して来た年にお披露目と近所の作家さんとの交流のために「鞍馬口美術界隈」を開催しました。鞍馬口はどんどん若い現代美術作家が増えているみたいで、知り合いだけで10人くらいこの周辺にいます。過去3回、夫の原田の企画で出窓を使用したウィンドウギャラリーで展示企画も行いました。(写真は、HRD FINE ART「DEMADO CONTEMPORARY ART PROJECT Vol.5 田中加織《高月山》2012.6.23~8.19」の展示風景)大家さんも美術好きで、職人さんの多い西陣も近いのでモノ作り自体に理解がある住民の方が多いみたいで、近所の方々も頻繁に足を運んでくださり、楽しんでくれています。
ー町家での暮らしや制作はいかがですか?
 特に海外から来た方が興味深く町家の作りを見ていきますね。玄関を開けたらまた玄関があったりとか。小さいですが奥に庭もあります。ただ、新しい家ではないので、どうしてもネズミや虫などがいます。一年目の時は慣れないせいか、体調を崩したこともありました。カビ等も大変でしたが、近くに住む先輩方から対策方法を色々と教わりました。そんな、環境にとけ込んでいるようなところも楽しんでいます。スタジオスペースは広さが充分にあり、保管場所も取れています。でも、住居として作られている家なのでちゃんとしたアトリエとは違い、天井が低かったり、引きが取れなかったり、二階に水場が無いなど、絵を描くのに不便な所はあります。あとは階段が狭く、大きい作品が通らないので作る作品が限られてきたりとか。
ー寺島さんは、京都芸術センターの制作室を3ヶ月間の短期で借りて制作をされていましたね。
 はい、そういうわけで大きい作品は芸術センターで作っています。あんな良いところは他には無いですね。天井は高く、水場があり、ガスは許可を取れば使用可能。朝10時から夜10時まで使って無料です。もっと色々な作家さんに使って欲しいと思いますね。私は制作環境がすごく大事だと考えています。環境によってできる作品も違ってくるので、アーティストにとって環境の変化は良い刺激になると思います。
[dropcap color=red]3[/dropcap]京都について[clear] ー京都に暮らしていて便利な点、不便な点はありますか?
 京都は歩けば、自転車一つあればどこでも行けるコンパクトさが便利なところです。建物も面白いところが多いですし、川も近くにあって散歩ができたり、緑が豊かですね。自然環境は私にとって大事です。自然や感情は綺麗に整理されたものじゃなくて、色んなものが混じっているカオス的なものだと思うんです。私が絵を描いているのは、そういう自分の感じている、見ている世界をそのまま伝えたいからです。画面から生命力を感じないとちょっと違うというか。
 不便な点は、アーティストに必須のホームセンターの数が少なく、閉まる時間が早い。何でも手に入るわけじゃないから、材木屋さんにあたったり、人との繋がりの中で工夫するしかない。でもそれが京都ならではのゆっくりペースで、不便さを楽しんで生活しています。
ーこれからの京都に期待している事は?
 現代美術の制作活動を援助してくださる機関が、私の学生時代より充実していて素晴らしいと思います。仕事があれば京都に定住する人がさらに増えてくるのではないでしょうか。それに京都は盆地全体が一つの箱だと思うので、一つ一つのハコモノではなく全体環境を考えたアプローチをしてもらいたいと思います。そうすれば、観光地としてはもちろんのこと、住み易さもさらにアップすると思いますね。
寺島みどり Midori Terashima
作家ホームページ
1972年京都市生まれ。1998年京都市立芸術大学大学院美術研究科修了。2003年より絵画作品の発表を始める。
◇主な個展-ギャラリー白/大阪(’97)Gallery Den/大阪(’03,’07,’09)Oギャラリーeyes/大阪(’04-’07)neutron/京都(’06,’09) 東京(’09,’11,’12)ギャラリー風/大阪(’08)奈義町現代美術館/岡山(’09)京都芸術センター/京都(’10)枚方市立御殿山生涯学習美術センター/大阪(’10)Artspace Withartist/韓国(’11)Gallery Cha/韓国(’11)
◇主なグループ展-「VOCA展」上野の森美術館/東京(’08)「BLUEDOT ASIA 2008」ソウルアーツセンター/韓国(’08)「とよた美術展2010」豊田市美術館/愛知(’10)「黄金町バザール2012」黄金町/横浜(’12予定)