2010年3月7日、雨が続いているせいか斜面の裾にでかい岩がゴロゴロ落ちていて、時に砂利が滑り落ちる音が雨音に混じって聴こえてくる。 もう2時間ほど雨に撃たれ体がかなり冷え込む。みな無言で黙々と歩く。でかい斜面を見上げると、砂利と小さな岩がドでけぇ岩を引き連れてゴロっと落ちて来る。「カメラ!」と叫んだがみんな口も目も全部開いて目の前の岩に向かってただ吠えてた。
[探険日記 "Documentation of Hysteresis ” vol10 より抜粋]


  僕らは2009年より山から都市に移り変わる場所を定期的に訪れている。訪れ始めた当時の景色は、とてつもなく広大で、ただただ何も無く、あるのは木と土と石。すぐ後ろには緑が生い茂る山並みが連なる。ごろごろと大小の石が転がる起伏の激しい土の道を歩き、木が無くなった大きな山の谷を通り、切り倒された木々の固まりを抜け、ごそっと削られた斜面を目にしながら約2時間程歩くと、この場所の一番上辺りにたどり着く。ここからの眺めはとても素晴らしく、大きな都市から遠くの海まで見渡せる。地面に導火線が這わせてあるのを発見した事がある。翌週行ってみると、岩盤が砕かれて、岩、石、砂利、砂が現れていた。岩と石は敷地内の各場所に集められ、再び砕かれる。砂利と砂はその場の地面になったり、土と混ぜられ新しい地質になる。僕らはこの場所で、色が綺麗な石、好きな形の石、変わった模様の石など、様々な石を見て来た。





[作品について]
  この場所に来て3年半が経ちました。そこら中にあった岩石の山はなくなり、たくさんの石がある場所は今回の撮影地の1カ所だけになりました。 だだっ広い所に100m以上の長さで積み重なっています。もうここにしか存在しない石の山を、自分たちがどのようにして記録/記憶する事ができるのかを考えた結果、 地下に吊るして抱きたい石を選ぶ事にしました。誰の石を吊るすのかを決めるため、各々自分の選んだ石についての話をした事が、この作品の始まりです。石の山がいつ無くなるか分からない状況の中で、2012年6月17日~11月18日まで11人の人が石の話をしてくれました。


2013年1月6日
石の山が大部分無くなった事に気がつきます。石の山があった時間と皆に聞いた石の話、そして皆が選んだ石が無くなった事を受けて自分たちが何をするべきか...。その事を考え撮影したのが、石を揺らしている映像と、最後の映像です。


2013年4月1日
まだ石は少し残っています。けれど、あと数ヶ月後にはこの場所で、石を目にする事はなくなるだろうと思っています。というのは、僕らの探険場所は今、とても速いスピードで山から都市へと移り変わっているからです。









hyslom / ヒスロム
2009年よりhyslom/ヒスロム(加藤至・星野文紀・吉田祐)は山から都市に移り変わる場所を定期的に探険している。この場所の変化を自分たちが身体で実感する事に一番重点を置き、その時々の遊びや物語りの撮影を行う。ここでの記録資料を作るにあたり、映像、写真の他に出会った人々を演じることや、日記、スケッチの作成、立体物の制作やパフォーマンスなど様々な方法を試みている。

Copyright © 2013 hyslom All Rights Reserved.