日射しの強い昼時、僕らの作業場へ向かう道中、すごい光景を見た。 任さんのビルの上空で大群の鳩が、太陽を背にぐるぐると旋回している。これって鳩なんだ、と分かるまで結構時間がかかった。僕の鳩のイメージは、道ばたでちょこちょこ歩いていて必要なときだけ、ちょろっと飛ぶって感じ。でも目の前の鳩は高速で飛び回っている。なんだか崇高さも感じる。翼もデカいし。

任さんは僕らの大家さんで、作業場の向かいに任さんのビルがある。そこには任さんと500羽の鳩たちが住んでいる。



  鳩たちは羽ばたき、空高く飛び上がった。じっとしていた身体を伸ばす様に羽を拡げて上空を旋回した。 今居る位置と自分たちの家の方角を確かめながら、何度も旋回を繰り返して飛んでいった。太陽の位置を頼りに。大気の変化を感じながら。建物や道は地形となり、住処は点となって、空には風の道が現れる。追い風が後押してくれると、まるで高速道路の様に大きな道へと変わる。ジェット気流に乗った時には羽を少し休め、風に身を任せて滑空するんだ。鳩たちは人が到底視ることの出来ない景色や体験し得ない世界を旅している。僕らの住んでいる場所のこと、天候や環境を自分なりに読み解いて、鳩の航路を想像してみたりする。


「鳩レースについて」
  鳩レースとは人が関与出来ない、つまり八百長が一切起きうることのないスポーツです。空へ飛ばした後、鳩は帰巣本能に応じて、一心不乱に巣を目指します。その経緯を人は見ることが出来ません。見えない鳩を想像しながら待つこと。放った後は全て鳩に委ねる。ここに鳩レースの醍醐味があります。








hyslom / ヒスロム
2009年よりhyslom/ヒスロム(加藤至・星野文紀・吉田祐)は山から都市に移り変わる場所を定期的に探険している。
この場所の変化を自分たちが身体で実感する事に一番重点を置き、その時々の遊びや物語りの撮影を行う。ここでの記録資料を作るにあたり、映像、写真の他に出会った人々を演じることや、日記、スケッチの作成、立体物の制作やパフォーマンスなど様々な方法を試みている。

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