Exhibition Review

2022_01

2022.06.03

KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭2022 アーヴィング・ペン

アーヴィング・ペン

京都市美術館

2022年4月9日(土) - 2022年5月8日(日)

レビュアー:山際美優 (22) 学生

KYOTOGRAPHIE2022では、アーヴィング・ペン展が京都市美術館別館で、ギイ・ブルダン展が京都文化博物館で開催されている。年はペンの方が十ほど上だが、ふたりは同じ時代をペンはニューヨークで、ブルダンはパリでファッション写真家として活躍している。そんな二人の写真家に直接的な交流があったのかは定かではないが、ここ京都で同時期に各々の展示が行われているのは興味深い。当の二つの展示は、非常に対照的だ。ペンとブルダンの写真そのものを比較するのも面白かろうが、ここは試しに二つの展示を比較検討してみたい。
ペンの展示が行われたのは、京都市美術館別館、元は京都市公会堂(岡崎公会堂)として1930年に建てられた建物である。建設直後に火災があったために、外装は千鳥破風と唐破風和風の面構えが印象的な和風建築ながら、躯体は鉄筋コンクリートでできている。一方のブルダンの展示が行われたのは、京都文化博物館別館、元は日本銀行京都支店として1906年に建てられた建物で、設計は辰野金吾とその弟子・長野宇平治が手掛けている。こちらはいわゆる「辰野式」と呼ばれる、赤レンガと白い花崗岩を用いた洋風建築である。このように両者は外観に関しては和洋全く相違している。しかし、元の用途から離れて新しく美術館として運用されている点、そしてどちらも天皇即位の記念事業にまつわる点、つまり京都市美術館は昭和天皇即位を、京都文化博物館は平安遷都1200年を記念するための施設として美術館が開館したことは見逃せない。
ペン展の会場を入ると、照明は薄暗く、臨時で設えられた壁の色も黒やグレー、ネイビーやカーキ等、暗めの色調で揃えられている。しかしここでの展示の最大の特徴は、壁と壁とを鋭角に重ね合わせながら作り上げられた鋸歯状の通路である。展示設計を担当したのは、今年新たにオプーンした中之島美術館の設計を手掛けた遠藤克彦建築研究所で、ペンの撮ったポートレイト写真に着想を得てデザインしたものだという。一つ、ペンが撮影したマルセル・デュシャンのポートレイトを見てみよう。壁が鋭角に迫った狭小な空間のなかで、パイプを咥えたデュシャンが角にもたれ掛かるようにしてスラリと立っており、こちらをそっと見据えている。この一枚の写真に、デュシャンのえもいわれぬ魅力が詰まっているのである。ペンがカメラを構えたその狭小な鋭角の空間を追体験するように、鑑賞の歩を進めることができるというわけだ。
ペンの展覧会場が鋭角の連続による鋸歯状に作り上げられていたのに対し、ブルダンのそれは円を幾重にも重ね合わせた螺旋状となっている。壁の色彩も明るくバラエティーに富んでおり、ブルーやパープル、イエローやピンクが使われている。本展は、去年の秋に東京にあるシャネル・ネクサス・ホールで開催されていた展示の巡回展であるが、展示設計は新しくデザインされたものである。螺旋状の展示は、今自分がどこにいるのかが把握しにくい一方で、歩くという行為そのものの楽しみがある。京都文化博物館でこの展示が設営されたのは1階のホールであるが、2階の会場ではブルダンのムービーが上映されており、その廊下部分からは1階の展示を俯瞰して見ることができる。改めてその展示会場全体を眺めやると、テーマパークのアトラクションのような観があった。
そしてそれぞれの展示の協賛となっているブランドが、ペン展ではディオール、ブルダン展ではシャネルというのも好対照をなしているだろう。ペン展では、ペンが手掛けたクリスチャン・ディオールのポートレイトも展示されている。首をかしげただらしのない顔が印象的だ。ブルダンの作品は、演劇的に作り込まれたセットと演者が特徴的だが、ペンの作品には、素朴なスタジオでの被写体の無意識的な一瞬が収められ、それがプリントとして表れたとき、名伏しがたい魅力となる。ディオールかシャネルか、和風建築か洋風建築か、鋸歯状か螺旋状か、ペンとブルダン、読者諸君はどちらの展示がお好みだったであろうか?

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